受注制作のソフトウェアの収益認識基準と 海外子会社(中国・ベトナム)に開発を受注した際の留意点

システム開発時には、多くのプログラマーが必要となります。
しかし、日本国内のシステムインテグレーター業界では慢性的な人材不足で、スキルの高いIT技術者を国内のみで確保することは極めて困難な状況となっています。
そのため、競争力のある価格を実現するとともにリソースの確保を行うため、中国やベトナムといった優秀なIT技術者の多い国にシステム開発のための子会社を作ったり、現地の会社に開発の委託を行うこともまだまだ増えています。

それでは、受注制作のソフトウェアの収益認識基準はどのように行うのでしょうか。海外子会社(中国・ベトナム)に開発を受注した際の留意点と合わせて解説します。

一般的なソフトウェア取引の収益の認識

まず受注制作のソフトウェアに該当しない一般的なソフトウェア取引の収益の認識については顧客に売った際にその金額を収益として認識します。

受注制作のソフトウェア取引の収益の認識

従来、受注制作のソフトウェア取引は、「工事契約に関する会計基準」を適用しており、工事進行基準もしくは工事完成基準により会計処理を行っていましたが、2021年4月1日以後開始する事業年度の期首より、すべての企業で企業会計基準委員会(ASBJ)が公開している「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」が適用されることとなりました。

受注制作のソフトウェア取引に関しても、同基準により、以下の5つのステップにあてはめ、収益の認識がなされます。

① 顧客との取引の識別
② 契約における履行義務の識別
③ 取引価格の算定
④ 履行義務の取引価格の配分
⑤ 履行義務の充足による収益の認識

①と②により、収益の単位が決定され、③と④により収益の額が算定され、⑤により収益の計上の時点が決定されることとなります。

企業がソフトウェアの受注制作を請け負った場合、要件定義、基本設計、詳細設計、開発、開発テストの各工程があります。
各工程でそれぞれ契約がなされ、検収が行われ、代金の授受がなされる場合でも、開発テストまで終わった段階で、最終成果物が顧客に提供されると判断され、すべてのフェーズが単一の履行義務と識別されることが多いです。その場合、「②契約における履行義務の識別」は、別個の契約でも1つのものとして識別します。
③と④では、契約に基づいた金額により収益の額を算定することとなります。
⑤の段階では、企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していれば、一定期間において収益を計上することが出来ます。つまり、契約において補償条項が付され、進捗した部分について企業が請求権を持っていれば、受注制作期間にわたり、原価等の進捗度を見積り、進捗度に応じた収益を認識することとなります。

なお、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足するまでの期間がごく短い場合は完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することが出来るなど、一定の場合は代替的な取り扱いが認められています。

海外子会社に開発をすべて受注した場合、企業が受注制作のソフトウェアに関し主たる責任を有しているか、価格の設定において裁量権を有しているかなど一定の指標により、収益を総額で認識するか手数料で認識するかで会計上の実務で論点がありますが、ここでは企業がすべての責任を有しているとします。
この場合、形式上、企業と顧客、企業と子会社でそれぞれ取引がなされることとなりますが、企業と顧客間では、先述の通り、5つのステップに基づき、収益を認識することとなります。このとき、収益の認識にあたり、その前提として、いくら費用が発生したか把握する必要があります。また、管理の面や経営の面においても、企業(親会社)での利益を正確に算出することが必要です。
そのため、開発を子会社に委託する場合、子会社に外注費の明細をきちんと作成し、提出してもらうことが重要となります。

PREV
中国企業へ支払う著作権の使用料について
NEXT
専門家(士業)と呼ばれる人は、どんな人がいて、どんなことができるの?