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はじめに
副業やフリーランスなど、「個人で事業を始めてみたい」という方が増える一方で、開業初期に多い悩みとして挙げられるのが「雑所得」と「事業所得」の区分です。とくに開業直後で売上が少ない場合、自分の収入をどちらに分類すればよいのか分からずに戸惑う方が非常に多いのではないでしょうか。
実は、この雑所得と事業所得の違いは、所得税の計算方法や申告手続き、さらには将来の節税対策にまで大きく影響します。本記事では、開業したばかりの個人事業主の方や、副業で少しずつ収入を得ている方向けに、
- 雑所得と事業所得の基本的な定義
- 事業的規模とみなされる要件
- 売上が少ない初期でも事業所得として認められる条件
- 税務上のメリット・デメリット
- 消費税の注意点
などについて、分かりやすく解説します。
将来的に事業を拡大していきたいと考える方はもちろん、「もう趣味程度の収入で終わるかもしれないけど…」という方も、ぜひ最後までご覧ください。自分に合った申告方法を選ぶうえで、きっと役立つはずです。
雑所得と事業所得の基本
定義の確認
- 事業所得(所得税法27条)
農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業など、独立して継続的に営む事業から生じる所得をいいます。フリーランスや個人事業主としての収入が代表例です。
- 雑所得(所得税法34条)
給与・事業・不動産・利子・配当・譲渡所得など、所得税法で定められた各種所得以外のすべての所得を指します。公的年金のほか、副業収入や原稿料、講演料、懸賞金などが該当するケースが多いです。
税金計算や申告方法への影響
- 事業所得
- 収入 - 必要経費 = 課税所得(利益)
- 青色申告か白色申告を選択できる
- 青色申告なら最大65万円の控除や損失繰越などの優遇措置がある
- 雑所得
- 収入 - 必要経費 = 課税所得
- 基本は白色申告(青色申告の対象外)
- 赤字が出ても他の所得と損益通算できない
事業所得とは
事業所得の定義
農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業など、独立して継続的に営む事業から生じる所得が「事業所得」にあたります。
フリーランス(ライター・デザイナー・プログラマーなど)や、個人事業主として開業届を提出している場合、原則として事業所得になります。
税務上の取り扱い
- 課税対象:収入金額から必要経費を差し引いた金額
- 申告方法:青色申告(最大65万円の控除、損失繰越など)または白色申告
- 青色申告のメリット:
- 最大65万円の青色申告特別控除
- 損失の繰越(最大10年)
- 減価償却費・経費計上の幅が広い
開業初期でも事業所得と認められる要件
- 明確な営利目的と継続意思:ただの「お小遣い稼ぎ」ではなく、継続して事業を発展させる意思を持っている
- 具体的な事業計画の存在:ビジネスモデルや営業方針、将来の売上目標などをきちんと考えている
- 収益を得るための継続的な努力:営業活動や広告宣伝など、実際に売上アップへの取り組みを行っている
雑所得とは
雑所得の定義
所得税法上、「給与・事業・不動産・利子・配当・譲渡所得」などのいずれにも該当しない所得は、すべて雑所得に分類されます。
具体例
- 副業(事業的規模に満たない場合)の収入
- 原稿料、講演料
- 懸賞金、賞金
- FX・株の少額取引による利益
- 公的年金
税務上の取り扱い
- 収入 - 必要経費 = 課税所得
- 白色申告での確定申告
- 損失が出ても他の所得と通算不可(赤字が出ても税金を減らせない)
事業的規模とそうでない場合の違い
事業的規模の判断基準
- 収入の金額
- 従業員の有無
- 資本金や設備投資の額
- 事業用資産(店舗・事務所など)の保有状況
- 広告宣伝活動の有無
これらを総合的に見て、社会通念上「事業」と認められるかがポイントです。
「社会通念上、事業と認められるか」の重要性
趣味の延長で少しだけ稼いでいる場合は雑所得扱いになりやすく、本格的に生計を立てる規模とみなせる活動であれば事業所得として認められやすいです。
開業したばかりで売上が少ない場合の事業所得の条件
「今は売上が少ないけど、将来的に大きくしていきたい」と考えている人は、以下の点を押さえれば開業初期でも事業所得と認められる可能性があります。
- 継続的な事業意思・将来的な拡大意図
- 事業計画の策定と活動実績
- 営業・マーケティングなど収益向上への取り組み
- 経費の支出が妥当か(事業規模に見合った内容)
- 社会通念上「事業」とみなせるか
小さく始めたとしても、「きちんと帳簿をつけ、顧客を開拓し、収益を伸ばそうとしている」ことを示すのが大切です。
雑所得か事業所得かを分ける具体的な判断基準
300万円基準について
- 収入が300万円以下でも、帳簿書類を保存していれば原則事業所得として扱われる
- 帳簿書類を保存していない場合、たとえ収入が300万円超あっても雑所得扱いされるリスクがある
- あくまで「300万円」は目安にすぎず、最終的には事業の実態・規模を総合的に判断
その他の判断ポイント
- 社会通念上、事業と認められる規模か
- 収入が主たる収入の一定割合以上を占めるか
- 営利性(赤字が続く場合でも改善の努力があるか)
- 記帳・帳簿書類の作成・保管状況
具体的な事例
ハンドメイド作家(雑所得になりやすい例)
- 趣味の延長で月数千円~1万円程度の売上
- 事業計画なし、販売は不定期
- お小遣い感覚で、規模拡大も特に考えていない
→ このような場合は雑所得と判断されやすい
Webデザイナー(事業所得と認められやすい例)
- 独立開業して、仕事を継続的に受注
- ブログやSNS、営業活動など宣伝を積極的に実施
- 事業計画や将来の拡大意図があり、実際に行動している
→ 売上が少なくても「事業として継続する意思」が明確であれば、事業所得として認められやすい
副業のアフィリエイト
- 会社員が帰宅後や週末にブログ運営
- 月数万円程度の広告収入
- 本人が将来的に独立したい意思を持ち、帳簿をつけているなら事業所得になる可能性あり
- 一方、ただ趣味で書いているだけなら雑所得扱いにとどまることも
家庭教師
- 専業で家庭教師を行い、安定した報酬を得ているなら事業所得
- 会社員の副業として週1回だけ教えている程度なら雑所得になりがち
ネットオークションによるせどり
- 不用品の処分なら雑所得(または譲渡所得)
- 継続的な仕入れ・販売のビジネスとして営利目的でやっていれば事業所得になる可能性が高い
税務上のメリット・デメリット
事業所得(青色申告)
メリット
- 最大65万円の青色申告特別控除
- 損失の繰越ができる(最大10年)
- 経費や減価償却費を幅広く計上可能
デメリット
- 帳簿付けや決算書類の作成など、経理処理が煩雑
- 規模が拡大すると、消費税の納税義務(2年前の売上1,000万円超)
- 国民健康保険料や国民年金保険料が増える可能性
雑所得
メリット
- 経理処理が比較的簡素
- 消費税の納税義務が基本的に生じない(小規模・一時的な収入が多いため)
デメリット
- 青色申告特別控除など優遇措置を受けられない
- 赤字を繰り越したり他の所得と通算できない
開業初期におけるアドバイス
将来の事業拡大を見据えているなら事業所得(青色申告)を検討
- 青色申告の税制優遇を早いうちから活用
- 帳簿付けなど経理の習慣をつけておくと、後々の税務処理もスムーズ
事業規模や将来像を踏まえて慎重に選択
- 趣味レベルで拡大予定がないなら、雑所得のままでも問題ない
- 迷う場合は税務署に相談や無料相談の税理士を利用するのも一つの方法
消費税の注意点
- 納税義務が生じる条件:2年前(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になる
- 税率:原則10%、飲食料品など一部は軽減税率8%
- 開業初期はまだ売上が少なくても、2年後以降に売上が急増すると消費税の対象になる可能性があるので注意
まとめ
- 雑所得と事業所得の違いは、単に売上金額だけでなく、事業としての継続性・営利目的・社会通念上の規模などを総合的に判断して決まる。
- 開業当初でも、将来的に事業拡大を目指しているなら、事業所得として認められる可能性が高い。
- 税務上のメリット(青色申告特別控除、損失繰越など)を活用するなら、事業所得(青色申告)を選択するほうが有利なケースが多い。
- 一方、趣味や小遣い稼ぎ程度で拡大予定がない場合は、雑所得として簡素に処理する選択もあり。
- いずれにしても、開業届の提出や帳簿の整備など、正しい手続きを踏むことが後々のトラブル防止や節税につながる。
【あとがき】
開業初期は「本当に事業としてやっていけるのか…」と売上が少ないことで自信をなくす時期でもあります。
しかし、正式に事業所得として扱うかどうかは、今後の税務上のメリットやビジネスの発展に大きく関わってきます。
少なくとも、「将来もっと大きくしたい」「本気で収入を伸ばしたい」と考えている方は、早めに開業届を出し、帳簿をしっかり付けながら“本物の事業”として運営していくのがおすすめです。
一方、「趣味の範囲で続けるので十分」「あまり手続きに時間を割けない」という方は、無理に事業所得にせず、雑所得としてシンプルに処理する道もあります。
自分の活動スタイルや将来像に合わせて、ベストな選択をしてください。
本記事が、あなたのビジネスが一歩前に進むきっかけになれば幸いです。分からないことや不安な点があれば、早めに税務署や専門家へ相談してみると安心ですよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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