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はじめに
確定申告のシーズンになると、「申告書を提出した後に間違いに気づいた」「そもそも申告する必要がなかったかもしれない」など、提出済みの申告書に対して「あれ、取り下げできないの?」と疑問を持つことがあります。
実は、税務申告をいったん提出した後でも、限られたケースにおいては“取下げ”という形で書類をなかったことにできる場合があります。もっとも、法律上はっきり規定されているわけではなく、実務上の運用として限定的に認められているため、すべてのケースで自由に取り下げできるわけではありません。
この記事では、個人事業主の皆さまに向けて、所得税や消費税における「取下げ」が可能な場合、認められない場合、そして「却下」と「取下げ」の違い、さらに取下げ書の一般的なフォーマットについて、分かりやすく解説します。
そもそも「税務申告の取下げ」とは?
「取下げ」とは、一度税務署に提出した申告書や届出書などを、自分の意思で撤回し、提出そのものを“なかったこと”にする手続きを指します。
ただし、法律上は不服申立て(審査請求)の場合しか明確な“取下げ”規定はありません。いっぽう、実務では誤提出や二重提出など明らかに不要な申告書であれば、取下げ書の提出によって撤回が認められることがあります。
しかし、納税額や権利・義務に影響を与える申告は基本的に取り下げできません。申告の取り下げが認められるのは、「税額に影響がない、または本来提出義務のない申告である」というように限定的なケースに限られる点に注意しましょう。
取下げが可能な具体的なケース
二重申告(重複提出)をしてしまった場合
たとえば確定申告シーズンに、すでに提出した申告書の控えを紛失してしまい、「もしかして提出していないかも…」と勘違いして同じ内容の確定申告書を重複提出してしまうことがあります。
- 同じ内容の申告を2回提出した場合、税務署から「既に同内容の申告が出ていますが、どうしますか?」と確認が入ることが多いです。
- 後から出した申告書が、最初の申告書と完全に同一内容であれば、後者の申告を取下げることで重複を解消することができます。
- もし後から出した方にだけ訂正すべき点があるなど、納税額が変わる場合は、修正申告や更正の請求を用いて訂正しましょう。
- なお、確定申告期限内であれば、改めて出し直した一番新しい申告書が正式な申告として扱われますので、取下げ手続きをしなくても事実上「最新の提出分」が優先されます。
本来申告義務のない人が誤って申告した場合
たとえば、給与所得しかない方で年末調整をすでに受けていて、かつ他の所得が20万円以下で本来は確定申告不要のケース。しかし間違って「少しでも所得があれば申告しなきゃ」と勘違いして申告した結果、かえって税金を納めることになってしまった…ということがあります。
- こうした「本来は申告不要の人が間違えて申告した」場合、税務署に取下げ書(撤回書)を提出することで“そもそも申告自体をなかったこと”にする運用が認められることがあります。
- すでに誤って納付してしまった税額がある場合は、過誤納金として後日還付されることもあります。
- ただし、「還付申告のつもりで出したが、まだ還付を受け取っていないから取り下げたい」というような場合など、内容によっては取下げできないケースもあるため、事前に税務署に確認しましょう。
法定期限を大幅に経過して、そもそも無効な申告になっている場合
所得税や消費税等は、法定申告期限後でも5年以内なら“期限後申告”として原則受理されます。しかし
- 5年または7年を超過した時点で出された申告書は、法律上もはや効力を持たない(無効)場合があります。
- その場合、税務署から「この申告書は効力がないため、出していただいても受理できません。取下げますか?」といった案内があることがあります。
- 取下げによって、提出自体なかった扱いになり、税務署側も処理しない(門前払い)ことを確認します。
取下げが認められないケース
法律上、申告が義務付けられている人の確定申告
個人事業主など申告義務がある方が確定申告を提出した後、「やっぱりやめたいから申告を取り下げたい」ということは原則できません。
- 一度提出された確定申告や決算申告書は、税額を確定させる効果を持ち、後から勝手に撤回はできない仕組みになっています。
- 内容に誤りがあれば、修正申告や更正の請求で訂正することは可能ですが、提出自体をなかったことにはできません。
取下げによって税負担が変化するケース
もし取下げを認めることで、納税額が増減してしまう場合は税務署は取下げを受け付けません。
- たとえば、本来消費税の課税事業者に該当する事業者が申告しておきながら「やっぱり消費税を払いなくないから免税事業者に戻りたい」と取下げをしたい…というようなケースは認められません。
- 納税額に直接影響する申告行為は後から自由に覆せると、税制の公平性が損なわれるためです。
税務署がすでに正式な処分(却下通知など)を行った場合
更正の請求や青色申告承認申請など、「税務署の審査・処分を経る手続き」では、審査が進んで却下や受理などの処分が確定したあとに、納税者の都合で「やっぱり取り下げたい」は基本的に認められません。
- このような場合は、税務署の処分結果に対して不服なら不服申立て(審査請求)を行う流れになります。
- 提出後は一方的に撤回できず、正式に却下処分などが下ってから争うかどうかを判断する形です。
「却下」と「取下げ」はどう違う?
一見どちらも「提出した書類が無効になる」点では同じですが、主導者と理由が異なります。
- 取下げ: 納税者側が自主的に「提出をやめる(撤回する)」行為。重複提出など明確に不要な申告書があり、納税者自身が取り下げを申し出る場合などが該当。
- 却下: 税務署(税務当局)側が「内容や要件が満たされていないので受理しない」と一方的に判断し、処分を下すこと。期限超過や形式要件不備で門前払いになる場合が該当。
大きな違いは、誰が主導して提出を無効化するかと、処分(行政行為)の有無です。取下げには税務署の正式な処分は伴わず、納税者の意思で書類を撤回するイメージ。一方、却下は税務署長が納税者へ処分通知を出す形となります。
取下げ書のフォーマット(一般的な書き方)
取下げ書に明確な公定様式はありません。A4用紙1枚程度で、以下の内容を簡潔にまとめるのが一般的です。
- タイトル
「取下書」または「税務申告書取下書」など - 宛先
「○○税務署長 殿」
※提出先の税務署名を記載します。 - 本文(撤回対象の書類・理由など)
- いつ提出したどの申告書を取り下げるか
- その理由(例:「令和○年○月○日に同内容の申告書を提出済みのため重複となりましたので…」など)
例文:
「令和○年○月○日に提出した令和○年分所得税及び復興特別所得税の確定申告書(受付番号○○)については、重複提出のため取下げをいたします。」
- 提出者情報
- 住所、氏名・押印(個人事業主の場合)
- 提出日
ポイント
- 「いつ・どの書類を・なぜ取り下げたいか」がハッキリ伝わるように書く。
- 実際に提出する前に、所轄税務署へ「取下げが認められるかどうか」必ず確認しましょう。
まとめ・注意点
- 取下げが認められるのはごく限られた場合のみ
- 重複申告や、本来申告不要な人の誤提出など、納税額に影響しない申告なら実務上“取下げ”で撤回が可能なことがあります。
- 一方で、本来義務のある申告の取り下げや、取下げにより税負担に変動が生じるケースは認められません。
- 誤りがあれば「修正申告」または「更正の請求」で訂正する
- 取下げが無理でも、申告内容の誤りは修正申告や更正の請求で対応可能です。
- 「税額を増やす(納め足りない)」→修正申告
- 「税額を減らす(納め過ぎ)」→更正の請求
- 取下げ書は必ず税務署に事前確認を
- 実際に取下げ書を出す場合、税務署職員に相談してから提出するようにしましょう。
- 税額や還付に影響しそうなケースは取下げが難しい場合が多いので要注意。
- 最終的には専門家に相談を
- 「ほんとに取り下げたいのか? 修正申告で済むのでは?」など、迷った場合は税理士などのプロに相談しましょう。
- 取下げと修正申告・更正の請求は、目的や結果が異なります。最適な方法を見極めることが大切です。
【結論】
- 税務申告の取下げは一般的には馴染みが薄いですが、重複提出や誤って申告不要の方が提出してしまったケースなど、特定の状況では認められる場合があります。
- ただし、多くの人にとっては「すでに提出した申告は安易には撤回できない」のが原則です。
- 間違いに気付いたら、まずは修正申告や更正の請求で訂正できないかを検討し、どうしても“提出自体”をなかったことにしたい場合は、事前に税務署へ相談して取下げ書の提出を検討してください。
- 個人事業主の皆さまも、日頃の申告で「しまった、二重提出だ!」などと思い当たる場合は、あわてず税務署・税理士のアドバイスを受けて、適切に対応しましょう。


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