勤務実態のない家族役員に対する役員報酬の法人税法上の取り扱い

執筆者 中国語対応税理士 岩谷敦史
役員報酬は法人税法上、事業活動に基づく適正な経費として損金算入できる重要な支出項目です。しかし、勤務実態がない家族役員に対して支払う役員報酬は、税務調査で否認されるリスクが非常に高く、適切な対応が求められます。本記事では、勤務実態のない家族役員への報酬に関する損金算入の要件やリスク、対応策を解説します。
Contents
読んでほしい人
- 家族役員を抱える法人の経営者
- 役員報酬の適正化を検討している事業主
- 税務リスクを最小限に抑えたい法人経理担当者
損金算入の要件
役員報酬が損金として認められるための条件
- 役員としての職務遂行
- 役員報酬は職務行為の対価であり、実際に職務を遂行していることが前提です。役員としての業務内容や成果を記録することが求められます。
- 報酬額の適正性
- 報酬額が職務や責任に見合い、同業他社と比較して過大でないことが条件です。不相当に高額な報酬は損金不算入とされます。
- 形式的要件の遵守
- 報酬額は、株主総会や取締役会で決議されている必要があります。議事録の整備などの形式的要件も必須です。
税務上のリスク
- 意図的な所得分散とみなされるリスク
- 家族役員に勤務実態がないにもかかわらず報酬を支払うと、意図的な所得分散として税務署に問題視される可能性があります。
- 税務調査での否認
- 勤務実態や報酬の妥当性が証明できない場合、税務調査で否認され、法人税の追徴課税が発生します。
- 裁判での敗訴リスク
- 税務署の指摘に対して法廷で争った場合でも、勤務実態がないと判断されると敗訴する可能性が高いです。
対応策
- 役員の職務実態を確立
- 役員の職務内容を具体的に定め、業務を実施した証拠を残すことが重要です。
- 報酬額の適正化
- 報酬額を業務内容に見合った適正な金額に調整します。同業他社の報酬額を参考にすることが推奨されます。
- 役員報酬規定の整備
- 役員報酬の規定を明文化し、職務内容と報酬額を明確にすることで税務リスクを低減できます。
- 定期同額給与の適用
- 毎月同額の給与を支給する定期同額給与制度を採用することで、損金算入の可能性を高めます。また、変動報酬を支給する場合は事前確定届出給与を利用します。
勤務実態のない家族役員に支払う報酬の基準
勤務実態がない場合のリスク
- 損金不算入
- 勤務実態がない場合、支払った報酬は損金として認められず、法人税の課税所得が増加します。
- 過去の修正申告の要求
- 税務調査で否認された場合、過去の報酬支払いについても遡及して修正申告が求められる可能性があります。
- 重加算税の課税
- 故意または重大な過失が認定されると、重加算税が課されるリスクがあります。
適正な報酬額の設定方法
- 同業他社の水準を参考
- 同規模・同業種の会社での非常勤役員報酬を参考に設定します。判例では年間110万~180万円程度が妥当とされています。
- 職務内容に応じた金額設定
- 役員が実施する業務内容や貢献度に基づいて報酬を設定します。
- 税務署に説明可能な根拠を準備
- 報酬額の妥当性を示す資料(業務記録、勤務時間、成果物など)を用意しておくことが重要です。
勤務実態がない場合の代替案
- 配当金として支給
- 役員が株主の場合、報酬ではなく配当金を支給する方法があります。ただし、配当金は損金算入されないため法人税の負担は軽減されません。
- 名義役員を外す
- 勤務実態がない場合は、名義役員を外し、報酬を支払わない形にすることも検討できます。
FAQ(よくある質問と回答)
Q1: 勤務実態を証明するにはどのような資料が必要ですか?
A: 業務内容、勤務時間、成果物などを記録した文書や日報が必要です。具体的には業務指示書や月次報告書が役立ちます。
Q2: 報酬額が過大かどうかを判断する基準はありますか?
A: 同業他社の非常勤役員報酬を参考にしましょう。年間110万円~180万円程度が適正とされる判例があります。
Q3: 名義役員を外す場合、注意すべき点は?
A: 名義役員を外す場合は、株主総会での決議や登記変更など、会社法上の手続きが必要です。
Q4: 税務調査で否認されるとどうなりますか?
A: 否認されると、損金不算入となり法人税が増加します。また、過去の修正申告が求められることもあります。
Q5: 重加算税とは何ですか?
A: 重加算税は、故意または重大な過失が認められた場合に課されるペナルティ税です。税額の35%が追加で課されることがあります。
まとめ
勤務実態のない家族役員に対する役員報酬は、税務調査で否認されるリスクが高いため、以下の対応が求められます。
- 勤務実態を明確化し、職務内容を記録する。
- 適正な報酬額を設定し、税務署に説明可能な根拠を準備する。
- 配当金の支給や名義役員の解除など、代替案を慎重に検討する。


PREV
![]() |
NEXT
![]() |