高額賞与による社会保険料削減スキーム終了へ? 2025年改正がもたらす企業負担の行方

社会保険料削減スキームとは

社会保険料は、会社が従業員や役員に給与を支払う際に発生するもので、健康保険・厚生年金などの保険料を会社と個人が折半して負担します。給料に対しておよそ30%前後の保険料がかかるため、年収が高いほど大きな負担となります。一方で、健康保険や厚生年金には「保険料の上限」が設定されており、高額な給与を受け取る人でも一定額を超えると保険料が増えない仕組みになっています。

上限を利用した削減スキーム

近年問題視されている手法として、月額報酬を極端に低く設定し、年1回の高額賞与で年収を確保するというものがあります。具体例としては、役員報酬を月額6~10万円程度に抑え、年度末などにまとまった賞与を出すことで、社会保険料の計算対象となる部分を上限内におさめ、結果的に会社と役員双方の保険料負担を抑えることができる仕組みです。この方法により、年収1200万円でも通常より100万円以上の削減が可能になるといわれ、多くの中小企業やオーナー社長が活用してきました。

審議会での議論と改正方向

2024年後半、厚生労働省の社会保障審議会(医療保険部会)において、この「役員報酬+高額賞与」を使った社会保険料削減スキームが本格的に議題となりました。同年9月末の部会ヒアリングでは、標準賞与額の上限を悪用したケースが多数報告され、11月21日の第186回部会資料でもこのスキームに該当する利用実態が公表されています。これを受けて、標準賞与額上限の見直し(引き上げ)により、当該スキームを封じ込める方向で議論が加速しているようです。

法改正の可能性

現時点(2024年末)で具体的な法改正案の提出時期は明らかではありませんが、早ければ2025年にも関連法の改正が行われる可能性が指摘されています。また、厚生年金財源の不足が懸念されていることから、国としても早期の制度変更が必要だという見解が広がっているようです。

改正内容の概要

現行の標準賞与額上限

  • 健康保険:年間累計 573万円
  • 厚生年金保険:1回につき 150万円

この上限を利用して保険料がかからない「超過部分」を大きくすることで削減を図る仕組みが問題視されているため、上限自体の引き上げが有力な改正案となっています。厚生労働省の資料によれば、民間企業の平均賞与を踏まえて、標準賞与額の上限を年間624万円程度まで引き上げる試算が示されています。

改正項目 現行制度(2024年) 検討中の改正案(2024年末時点) 実施時期の目安
標準賞与額の上限 – 健康保険:年間累計 573万円
– 厚生年金:1回 150万円
– 上限額の引き上げを検討
例:年間624万円まで増額 (※試算)
2024年11月に審議会議論開始
2025年以降の法改正施行見込み

補足:上限額の算定根拠は、厚生年金の標準報酬月額最高等級(現在139万円)に民間平均賞与月数(約4.5カ月)を乗じた額をベースにしており、近年の賞与水準を反映するための見直しが検討されています。最終的な数値は国会審議を経て確定となります。

政府や関係機関の発表・ガイドライン

厚生労働省の動き

厚生労働省は公式プレスリリースとして「標準賞与額の上限見直し」を明言していませんが、社会保障審議会の資料の中で問題点と検討方針を提示しています。同資料では、「月額報酬5.8~7.8万円の被保険者が高額賞与を受け取るケース」「標準賞与上限該当者のうち、月額30万円以下の者が令和2年から令和5年で約1.6倍に増加」などのデータが公表され、事実上このスキームの拡大に対して警鐘を鳴らしています。

また、厚労省は「制度の趣旨に反する保険料逃れは許容できない」との立場を強調。見直しの具体案としては標準賞与上限の引き上げを中心に、厚生年金においては標準報酬月額の見直しなども取りざたされています。

政府・財政当局の見解

社会保険料削減スキームによって高所得者の負担が極端に軽減されている点は、公平な財源確保や全世代型社会保障の観点から問題視されています。財務省の財政審や全世代型社会保障検討でも、高所得役員の保険料逃れを封じる方向性が示されており、政府内では合意形成が進みつつあります。今後、法律改正が正式に決定すれば、厚労省や日本年金機構、全国健康保険協会などからガイドラインや計算方法の変更が周知される見通しです。

企業や経営者への影響

コスト増加の予測

仮に標準賞与額上限が引き上げられれば、該当する中小企業にとって社会保険料負担の増加は避けられません。
例として、年収1200万円の役員報酬を「月10万円+年末賞与1080万円」とした場合、現行制度では会社・個人合計で約144万円の社会保険料を軽減できていたとも報告されています。改正後には、この軽減分が全額負担として上乗せされる可能性が高く、一人当たり年間100万円超の追加コストにつながり得るケースもあるようです。

影響を受ける企業の規模・業種

このスキームを特に活用しているのは、小規模オーナー企業や1人社長の法人、同族会社などです。月給を最低賃金ギリギリの5万~10万円に設定し、多額の賞与で年収を確保するため、最低賃金との矛盾や従業員1~4人の事業所での不自然な等級利用が浮き彫りになっています。専門サービス業や小規模不動産、医療法人など、オーナー自身が高所得を得るケースで多く見られるようです。一方で大企業では報酬規定などの理由から導入が難しく、影響は中小企業層に集中する見通しです。

経営者の対応方針

厚生労働省や財務当局の方針からして、このスキームの終了は既定路線と見られています。専門家からは、早めの役員報酬見直しや将来的な保険料負担増を織り込んだ資金計画の策定を推奨する声が多数挙がっています。

具体的には、

  • 月額報酬と賞与のバランスを再検討する
  • 社労士・税理士に相談し、正式改正前の対応策を講じる
  • 必要資金は役員借入や配当など他手段で確保する

などの動きが出始めています。一部では、社会保険料負担の増加を見越して福利厚生費の見直しや残業代削減など、コスト全般を圧縮する戦略が検討されるケースもあるようです。

まとめと今後の注意点

  • 社会保険料削減スキームは、標準賞与額上限の見直しにより実質終了に向かう見込み
  • 2025年をめどに法改正が行われる可能性が高く、改正内容が確定すれば各種ガイドラインや様式改定が周知される予定
  • 特に中小企業やオーナー経営者は、早めに報酬設計を見直し、適正な社会保険料負担を確保したうえで会社経営のバランスを図る必要がある

厚生労働省や日本年金機構などの最新情報を継続的にチェックし、必要に応じて専門家のサポートを受けることで、スムーズな移行・対応が可能となるでしょう。

 

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