台湾居住者が日本の不動産所得を得た場合の税務対応

日本・台湾の租税協定における源泉所得税の扱い

日本国内源泉所得としての課税:

台湾在住者(日本の税法上の「非居住者」)が日本にある不動産から賃貸収入などの不動産所得を得た場合、その収入は日本の国内源泉所得に該当します​。

そのため支払者(賃借人)は、原則として賃料の20.42%に相当する所得税及び復興特別所得税を源泉徴収し、残額を非居住者である貸主に支払う必要があります​。

例えば法人テナントが海外在住のオーナーに家賃を支払う場合、毎月支払額の20.42%を天引きして税務署に納付する義務があります(残り79.58%がオーナーの手取額)​。

 

「非居住者」の判定:

日本の所得税法上、「居住者」とは「国内に住所がある者、または現在まで引き続き1年以上居所がある者」を指し、それ以外の個人は「非居住者」として扱われます​。

したがって台湾に生活の本拠があり日本に住所がない方は、日本では非居住者となります。日本国籍の方でも海外赴任などで1年以上日本に居所がない場合は非居住者に該当します​。

非居住者が日本で得る所得のうち、不動産の賃貸収入は典型的な国内源泉所得です。

源泉徴収が不要となる条件:

原則として非居住者への不動産賃料支払いには源泉徴収が課されますが、以下のケースでは源泉徴収が免除または不要となる場合があります。

居住用家賃の場合:

賃借人が個人で、その借りた不動産を自己または親族の居住用に供している場合、その賃料については源泉徴収不要と明確に規定されています​。つまり、借主が自宅用として海外在住オーナーに家賃を払う場合は、源泉徴収義務はありません(この場合でも不動産所得自体は日本で課税対象なので、貸主側で確定申告により納税する必要があります)。

「源泉徴収免除証明書」の交付を受けている場合:

非居住者の貸主が日本国内に恒久的施設(PE: Permanent Establishment)を有するなど一定の要件を満たし、所轄税務署長から「源泉所得税の免除証明書」の交付を受けている場合は、その有効期間内の当該賃料について源泉徴収が免除されます​。免除証明書を受ける主な要件として、①日本での開業届の提出、②納税管理人の届出、③前年分の確定申告書の提出といった条件を満たす必要があります​。これらを満たし税務署に申請すると、源泉徴収不要で自己申告による納税が認められる証明書が発行されます。免除証明書が提示されていれば、借主(支払者)は20.42%の源泉徴収を行う必要がなくなります​。なお、この免除証明書の制度は、日本に事業拠点を持つ非居住者等について源泉徴収ではなく申告納税により課税する趣旨のものです。

租税条約上の免税・軽減が適用されない:

日本が他国と租税条約を締結している場合、条約の定めにより特定の所得について源泉徴収税率の軽減や免除が認められるケースがあります。ただし不動産所得(賃貸料)については日台租税協定を含む多くの租税条約で「不動産の所在国で課税できる」と規定されており、日本での課税が免除される対象にはなっていません​。つまり、台湾居住者が日本の不動産賃料を得る場合、協定上も日本に課税権が認められているため源泉徴収免除の恩典はなく、日本の国内法どおり課税されます​。

具体例

  • 状況:
    • 物件所在地: 東京都内
    • オーナー: 台湾在住の個人 (日本の税法上「非居住者」)
    • 賃借人: 日本国内に本店がある法人A社
    • 賃貸契約: オーナー (台湾居住者) が A社にオフィス用スペース (事務所用) として賃貸
    • 月額賃料: 100万円 (共益費や管理費を除いた賃料部分)
    • その他の条件: オーナーは日本国内に事業拠点を持たず、源泉徴収免除証明書を取得していない

源泉徴収の必要性

不動産所得は国内源泉所得

台湾居住者 (非居住者) が日本国内の不動産から得る賃貸収入は日本の所得税法上の国内源泉所得に該当します。居住用であれ事業用であれ、国内に所在する不動産の賃貸料は原則として「源泉徴収の対象」となります。

法人テナントによる賃料支払時の源泉徴収義務

賃借人 (A社) が国内法人の場合は、賃料支払い時に 20.42% (所得税 20% + 復興特別所得税 0.42%) を源泉徴収し、残額 (79.58%) をオーナーに支払う義務があります。

    • 月額賃料が 100万円の場合、A社は 20万4,200円 (= 100万円 × 20.42%) を天引きし、79万5,800円をオーナーに支払い。
    • 源泉徴収額 20万4,200円は、A社が税務署へ納付することになります。

居住用賃貸ではない

法人A社のオフィスとして利用されるため、「個人が居住の用に供する」 ものではありません。個人の居住用賃貸であれば源泉徴収不要となる場合がありますが、本事例では企業向け賃貸のため源泉徴収不要の特例は該当しません。

  1. 源泉徴収免除証明書の未取得
    源泉徴収免除証明書を取得するためには、日本に恒久的施設 (PE) を持つなど一定の要件を満たし、所轄税務署へ開業届等を提出する必要があります。今回のオーナーは日本国内に事業拠点をもたず、免除証明書を申請していないので源泉徴収免除を受けることはできません。
  2. 日台租税協定の適用範囲
    日台租税協定 (正確には相互免除法等) では利子、配当、使用料等の所得について軽減措置が定められている場合がありますが、不動産所得の賃貸収入は免除対象とはなりません。したがって、協定上の優遇は受けられず、日本国内法に基づいて源泉徴収が課されます。

以上により、法人A社は毎月の賃貸料から 20.42% を源泉徴収したうえで納付し、オーナーに差し引いた額を支払う必要があります。

確定申告の必要性

非居住者の確定申告義務


日本の不動産所得がある非居住者は、年度末 (1月1日~12月31日) の収支を計算して確定申告をする義務があります。

    • ただし、源泉徴収だけで納税が完了するわけではありません。実際にかかった経費 (固定資産税、管理費、減価償却費など) を差し引くことで、源泉徴収額よりも本来の税額が少なくなることもあります。
    • もし源泉徴収された合計額が納付すべき税額より多い場合は、確定申告によってその差額の還付を受けることができます。反対に経費が少ない場合などは追納が生じることもあります。

納税管理人の選任


非居住者が日本で確定申告を行うためには、一般的に日本国内に納税管理人を置く必要があります。税理士や信頼できる第三者に依頼し、税務書類を取り扱ってもらうケースが多いです。

納税管理人の届出は、不動産を取得するタイミングや賃料収入が発生するまでに、所轄税務署 (不動産所在地を管轄する税務署) に提出しておく必要があります。

 

申告期限


個人の場合、一般的な所得税の確定申告期限は翌年の3月15日です (土日祝日の関係で前後します)。非居住者の場合も同じで、納税管理人を通じて確定申告を行います。

例えば 2024年分 (令和6年分) の所得に関しては、2025年3月17日 が確定申告書提出・納税期限となります。

源泉徴収済額の精算


毎月の賃料から天引きされた 20.42% の源泉徴収合計額は、その年の所得税および復興特別所得税の前払い的な位置付けになります。実際の賃貸経費などを考慮して年1回の確定申告を行い、本来の税額との差額があれば還付・追納されます。

結論

  • 源泉徴収が必要
    本事例 (台湾人オーナーが企業向けに日本の不動産を賃貸) では賃料支払時に20.42% の源泉徴収が行われます。これは日本国内に「恒久的施設 (PE)」を持たない非居住者に対する通常の取扱いであり、居住用賃貸の特例も適用外です。
  • 確定申告を行う必要がある
    年度末に不動産収支 (賃貸収入 – 経費) を計算し、日本の税務署に確定申告します。オーナー本人が日本に住んでいないため、通常は納税管理人を通じて行うことになります。

    • もし本来の納税額が源泉徴収額より少なければ、還付を受けられます。
  • 日台租税協定の不動産所得への免税特典はなし
    不動産所得は所在国 (日本) に課税権があるとされており、協定上の源泉徴収免除や軽減の対象にはなりません。

 

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