【初心者向け】個人事業主がやりがちな“グレー・ブラック経費”10選|税務調査で否認されない方法

個人事業主やフリーランスにとって、事業に必要な支出(必要経費)を正しく計上することは節税の基本です。
しかし、事業用と私用の境界が曖昧な「グレーゾーン」の経費や、税務署から「それは経費にならない(ブラック)」と判断されやすい支出があります。
こうした経費を誤って計上すると、税務調査で否認され追徴課税やペナルティのリスクがあります。

ここではグレーもしくはブラックとされやすい経費の典型例10項目を挙げ、それぞれについて税務上問題視される理由や背景、関連する判例、税務調査での指摘事例、そして経費として認めてもらうための対策・注意点を詳しく解説します。


Contents

事業用と私用が混在する車両費(マイカー関連費用)

グレー/黒とされる理由:

自家用車を事業にも使用している場合、本当に事業のための費用か私的な費用か判別が難しいためグレーになりがちです。
ガソリン代や自動車の減価償却費・維持費などを全額経費計上していても、事業利用の実態を証明できなければ税務上認められません。
プライベートでも使っている車を「事業用」と称して経費にするのは、税務署から家事関連費(プライベート費用)を経費に混入させていると判断され、ブラック認定されやすい項目です。

税務署の判断基準:

ポイントは事業目的で使用した証拠があるかどうかです。
例えば走行記録や業務日報で、「この日にどこへ営業訪問したための走行と給油だった」等の説明ができれば事業経費と認められます。
一方、利用状況の記録がなく事業用途が明確でない場合、購入費用はもちろんガソリン代や保険料も必要経費と認められない可能性が高いです。
特に高級車を購入して全額を減価償却費にしているような場合、「本当に業務に必要か?私的な資産ではないか?」と厳しくチェックされます。

関連する判例:

車両費に関する直接的な著名判例は少ないものの、事業に必要な部分が明確でない経費は認められないとの税務上の原則があります。
判例ではありませんが、国税庁も「家事関連費は業務上直接必要な部分だけが経費となる」旨を示しています。
例えば自家用資産を事業利用した場合、その事業利用部分を明らかに区分できなければ経費算入不可という考え方です。

税務調査での指摘例:

税務調査では、車の走行距離やガソリン給油記録を確認され、「年間○○リットルのガソリンを経費計上しているが、本当にすべて業務で使ったのか?」と質問されるケースがあります。
通勤や家族の送迎、買い物などプライベート利用分を混在させていると判断されると、その割合分の経費が否認されます。
実際に「業務日誌もなく走行ログも提出できなかったため、ガソリン代の半分を家事使用とみなされ否認された」という事例もあります。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 業務専用車両を用意・記録管理:可能であればプライベート用と事業用に車を分けることが理想です。難しい場合でも、いつどこに業務で使用したかの記録(日報や運行記録)を残すようにしましょう。走行メーターやGPS記録、訪問先リストなどを備えておくと説得力が増します。
  • 家事按分を適切に行う:完全に事業用と証明できない場合は、事業利用割合を計算して按分します。例えば年間走行距離のうち事業での走行が7割であれば、関連費用の7割だけを経費計上するなど合理的な基準で按分します。根拠なく「なんとなく半分」では認められないので注意が必要です。
  • 車両の名義と経費処理:車の購入やリースの名義もポイントです。事業名義で購入し、経費も事業用口座から支払うなど、公私を分ける工夫をしましょう。プライベート利用時のガソリン代は事業用カードを使わないなどメリハリをつけることも重要です。

家族や友人との飲食費・交際費(私的な会食)

グレー/黒とされる理由:

接待交際費としての飲食代であっても、同席者が家族や純粋な私的友人の場合、それは事業の必要経費ではなく個人的な出費とみなされます。事業と無関係な人との食事や飲み会代を経費計上するのは典型的なNG例です。たとえ取引先と称していても、実態が単なるプライベートな食事であれば税務上ブラックと判断されやすく、否認リスクが高いです。

税務署の判断基準:

誰とどんな目的で行われた会食かが判断基準です。税務署は領収書だけでなく、その場に同席した相手や目的を確認できるメモや記録を見ることがあります。「友人(または家族)との食事代」は原則として必要経費になりません。一方、「取引先(顧客、仕入先等)との打ち合わせを兼ねた会食」であり、その相手や目的が明確であれば交際費として認められます。ただし取引先であっても純粋に私的な付き合いでの食事はダメで、仕事上の必要性があるかどうかで判断されます。

関連する判例:

交際費については明確な判例よりも通達や実務での取り扱いが中心です。判例ではありませんが、国税庁は交際費について「業務に必要不可欠なもののみが必要経費」としており、友人や家族との私的飲食代は必要経費とならないと明言しています。過去の税務訴訟でも、単に人脈づくり目的で友人知人と飲食した費用は経費性が否定されています。

税務調査での指摘例:

調査官は領収書の但し書きや日付、金額から「◯月◯日の飲食代5万円は何の会合ですか?」などと質問してきます。この際、取引先との商談だったのか、単なるプライベート飲み会だったのかを説明できないとアウトです。実例として、あるフリーランスの方が毎週末の飲み代を交際費として計上していたところ、日付が土日に偏っていたため「家族や友人との外食ではないか」と疑われ、具体的な接待相手を答えられずに否認されたケースがあります。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 参加者と目的を記録:交際費として飲食代を計上する際は、誰と会って何のための食事だったかをメモして領収書に添付しておきましょう。例えば領収書の裏に「◯◯社の△△様と新規案件打合せ」と記載する習慣をつけます。こうした記録があれば、税務調査で「事業に必要な会食だった」ことを説明しやすくなります。
  • 私的な食事代は経費にしない:家族サービスや友人との親睦目的の外食費は、潔く事業経費にしないことです。「友人でもあり顧客でもある」というケースはグレーですが、仕事上の付き合いがあるならばビジネスの議題があったかなどを明確にしておきます。判断に迷う場合は経費計上を控える方が無難です。
  • 交際費の頻度と金額に注意:個人事業主の交際費には上限はありませんが、あまりに多額だと私的費用混入を疑われます。月数万円程度までに留め、異常に高額な会食(高級クラブでの飲食等)は業種によっては不自然なので注意します。

出張に家族同伴・観光を含めた旅費(混合旅行)

グレー/黒とされる理由:

本来は仕事の出張であっても、その旅程にプライベートな観光や家族サービスを組み込んだ場合、旅行費用の全額を経費とすることはできません。たとえば出張に家族を同行させたり、出張先で予定を延長して観光旅行を楽しんだ場合、その私的部分の費用は必要経費ではなく家事費とみなされます。旅費交通費は事業に関連する部分だけが経費になるのが原則であり、私用部分を経費に含めるとブラック判定されます。

税務署の判断基準:

旅費については旅程と目的の内容が基準です。事業に直接関係する用務に要した費用のみが経費と認められ、それ以外(観光日程の宿泊代や家族の旅費など)は除外されます。例えば3日間の出張のうち1日は業務、2日は観光だった場合、宿泊費や日当を按分して業務1日分だけ経費計上するのが正しい処理です。税務署は旅費の領収書の日付や場所から、「この日は仕事ではなく観光では?」とチェックします。また家族の航空券代・宿泊代が経費計上されていれば明らかに私的支出なので、まず認められません。ただし、出張中に事業に必要な視察や研修を行った場合などは、その範囲内で経費認定されることもあります。

関連する判例:

観光を伴う出張旅費について直接の判例はありませんが、考え方としては昭和56年の最高裁判決「富士映画事件」で示された「必要経費は業務の遂行上必要な支出に限る」との一般論が参考になります。また最近ではワーケーション(休暇地でのテレワーク)が広まりつつありますが、税務上は「どこまでが休暇でどこからが仕事か明確に区分する必要がある」と指摘されています。要するに、休暇的要素が混じる旅費は原則としてその部分は経費否認されると考えておくべきです。

税務調査での指摘例:

よくあるのは、「ご家族も一緒に行かれたようですが、その費用はご自身で負担しましたか?」と尋ねられるケースです。例えば航空券の控えから家族の同行が分かったり、出張報告書がなく観光土産の領収書ばかり残っていたりすると、プライベート旅行とみなされ旅費の大部分を否認されます。また「○○観光ホテル」など明らかに観光目的の宿泊施設のレシートを計上していて指摘される例もあります。実際に、海外出張に家族を帯同して航空券代を経費に入れていたところ、税務署から家族分は生活費だと指摘され追加徴税されたという事例も報告されています。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 事前に旅程を分ける:出張に私用を絡める場合、事業日程と観光日程を明確に区別しましょう。カレンダー上で業務の日と遊びの日を分け、経費計上するのは業務部分のみに徹底します。たとえば航空券は家族分を別精算にする、宿泊も観光日は自費で延泊する等、支出を分離しておくと安全です。
  • 出張の証拠を残す:出張先での商談資料や会議の議事録、名刺、写真など、業務を行った証拠を残しておきます。税務署に「この出張は業務でした」と説明できるよう、出張報告書や訪問先リストを作成するのも有効です。観光した場合でも、業務目的が副次的でないことを示す資料があれば説得力が増します。
  • 土産や延長滞在の扱い:出張中に購入した土産は基本的に私的出費ですが、従業員への差し入れや顧客向け手土産であれば福利厚生費や交際費で認められる場合があります。ただし家族への土産代は経費不可です。また出張延長の観光部分の費用(ホテル代やレンタカー代など)は事業と関係ないので計上しないようにします。

スーツ代など業務上の被服費

グレー/黒とされる理由:

仕事で着用するスーツや靴、カバンなどの費用は、一見事業に必要なようですが、「衣服」は誰もが日常生活で必要とするものであり私的用途と明確に区別しにくいため、税務上は原則として生活費(家事費)とみなされ経費計上が認められません。特にスーツ代は「仕事用」と主張してもプライベートでも使えるため、税務調査でも真っ先に否認されやすいブラック寄りの項目です。

税務署の判断基準:

被服費が必要経費と認められるのは、業務以外では通常使用できない特定用途の服装に限られます。典型例は制服や作業着で、勤務先や職種によって着用が義務付けられ、仕事以外では着られないものです。これらは事業遂行上必要な支出として経費算入が一般的に認められます。一方、スーツやビジネスカジュアル衣類はプライベートでも着用可能なため、「業務上必要な部分を明確に区分できる場合を除き、必要経費にならない」と判断されます。税務署は過去の判例も踏まえ、スーツ代はよほど特殊な事情がない限り家事費とみています。

関連する判例:

被服費について有名なのが、京都地裁昭和49年5月30日判決です。大学教授が「スーツ購入費用は仕事上必要だから経費だ」と主張しましたが、裁判所はこれを退け、スーツ代は必要経費ではないとの判断を示しました。判決理由では「スーツは一般的に私生活でも着用可能で、勤務上必要な部分を他と明瞭に区分できない」とされました。ただし同判決は一方で、「もし勤務上必要とした部分を他と明確に区分できるときは、その部分は必要経費になり得る余地がある」とも述べています。つまり仕事用と私用部分を明確に切り分けられる特殊な状況なら経費性を認める可能性を示唆した判例でもあります。

税務調査での指摘例:

実務上は、税務調査でスーツ代を経費計上していると高確率でツッコまれると言われます。例えば「この被服費5万円は何ですか?」と聞かれ、「スーツです」と答えると、「スーツはプライベートでも使えますよね」と指摘されるパターンです。あるケースでは、フリーランスの方が年間数十万円の衣服代を経費計上していたところ、税務署にクローゼットの中身を写真提出させられ、本当に業務専用か確認されたというエピソードもあります。結局スーツや革靴代は「やはり生活費」と判断され、全額否認となりました。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 職務専用の衣服であることを示す:例えばイベントコンパニオンのユニフォームや医師の白衣など、業務でしか使わない服であれば経費計上しやすくなります。スーツの場合でも、仕事場に置いて私用では着ないようにする、業務用にネクタイやシャツを事務所に常備するなど、仕事専用化の工夫が考えられます。
  • 按分計上する:完全には難しくても、使用日数や時間で按分して一部を経費にする手もあります。例えば週5日仕事・週末2日私用なら、スーツ代の5/7を経費に計上する、といった方法です。ただし根拠が曖昧だと認められないので、実際に仕事で着用した頻度の記録などを残すとよいでしょう。
  • 職業や業種に応じた判断:デザイナーやアパレル業ならファッションアイテム購入が経費になる場合もあります。例えばアパレルショップ経営者が流行研究のために服を買うケースです。このように業務関連性が客観的に説明できる衣服であれば経費にできる余地があります。ただし税務署を納得させるのは容易ではないため、専門家と相談して判断しましょう。

自宅家賃・光熱費など家事按分が必要な費用(自宅兼事務所の費用)

グレー/黒とされる理由:

自宅の一部を事務所や作業場として使っている場合の家賃や電気・水道代などは、プライベートな生活費と事業経費が混在する典型的なグレーゾーンです。自宅家賃を全額経費に入れてしまうと、明らかに私生活部分を含んでいるため税務上は認められません。一方で事業にも使っている以上、その部分は必要経費になり得ます。この按分(分割計上)の適否が問題となり、計算根拠が不明確だとブラックと判断されやすいです。

税務署の判断基準:

家事関連費と呼ばれるプライベートと事業が混在する費用は、「業務の遂行上必要な部分が明らかに区分できる場合に限り、その部分のみ経費算入可」というのが基本ルールです。したがって、自宅家賃なら仕事で使う部屋の面積割合、水道光熱費なら仕事で使う時間帯の割合など、何らかの客観的基準で按分していることが重要です。税務署は按分割合について「明らかな根拠に基づいているか」を見ます。例えば根拠なく一律50%を経費にしていると、「明らかに区分したとは言えない」として否認される可能性があります。逆に、間取り図や光熱費の使用記録などで〇割は事業スペースであると示せれば、その割合は経費として認められます。

関連する判例:

自宅兼事務所の経費按分は各ケースごとの判断となるため、具体的な判例というよりは通達や裁決事例で考え方が示されています。国税庁のタックスアンサーでも、「家事関連費のうち業務上必要な部分のみが必要経費になる」旨が説明されており、例えば自宅兼用の場合は合理的根拠にもとづき按分計算すべきとされています。判例上も、「明確な区分ができない費用は全額必要経費にならない」という一般原則が確認されており、家事関連費への適用が認められています。

税務調査での指摘例:

調査では、自宅家賃の何割を経費にしているか、その根拠は?と尋ねられることがあります。例えば家賃10万円のうち8万円を経費計上していた場合、「仕事専用の部屋は全体の何割ですか?」と聞かれます。根拠を示せないと、調査官は実態にそぐわない過大計上とみなします。ある事例では、ワンルームマンションで半分を経費にしていた人が、「明らかに私生活部分が半分以上ある」と指摘され、机まわり2畳分のみ経費(家賃の20%程度)と修正させられたケースがあります。また光熱費でも、「深夜もエアコン使用で高額だが深夜に仕事を?」と問われ、趣味や私用での使用を疑われた例があります。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 按分割合の明確化:客観的な按分基準を設定しましょう。面積按分なら自宅の平米数に対する仕事部屋の平米数、時間按分なら1日のうち事業作業に使う時間割合などです。例えば自宅50㎡中10㎡を仕事部屋に使うなら20%、電気代も勤務時間帯8時間/24時間で約33%など、具体的な数値根拠を算出しておきます。
  • 按分根拠の資料保管:間取り図や光熱費の時間別使用ログ、携帯電話の通話明細(仕事/私用の区分)など、按分の裏付け資料を保管しておきます。これに基づいて計算したことを帳簿にメモしておくと、調査時にも説明がスムーズです。按分割合を頻繁に変更すると利益操作を疑われるので、一度決めたら継続するのが望ましいです。
  • 経費化しすぎない:グレーな費用ほど欲張りすぎない按分が無難です。自宅家賃を経費にできるのは嬉しいですが、半分以上を計上すると目立ちます。実感として「このくらいなら妥当」と思える範囲に留め、残りは経費計上を諦める判断も必要です。税務署にも「常識的な範囲」と映る割合にしておく方がリスク回避になります。

家族従業者への給与(専従者給与の不備や過大給与)

グレー/黒とされる理由:

個人事業主が配偶者や子どもなど家族に支払う給与は、適切な手続きを踏んでいない場合、必要経費として認められないか制限されることがあります。とくに家族に対する過大な給与や、実態のない給与は、事実上の利益配分(生活費の移転)とみなされ税務上ブラックです。税法上、青色申告者で所定の届出をした場合の「青色事業専従者給与」や、白色申告者の「事業専従者控除」として一定額を経費算入する制度があります。しかし、これらの要件を満たさずに家族への支払いを経費計上すると否認されます。また要件を満たしていても、相場とかけ離れた高額給与は必要経費とは認められません。

税務署の判断基準:

家族への給与で経費計上が許されるのは、税務署に事前届出を行い、かつその家族が事業専従者として年間6ヶ月超従事している場合など厳格な条件があります(青色事業専従者給与)。さらに、その給与額が労務の対価として相当(妥当)な金額である必要があります。税務署は、他の従業員の給与水準や同業他社での相場と比べて、家族だけ突出して高額でないかをチェックします。例えば事業利益と同程度の給与を専従者である配偶者に払っていれば、「明らかに過大」であり超過部分は経費否認されます。一方、実態として家族もフルタイムで働いており、金額も外部相場並みであれば必要経費として認められやすいでしょう。

関連する判例:

家族専従者給与の有名な裁判例に、鳥取地裁平成24年6月22日判決があります。税理士の事業で、妻に年間1,200万円超という非常に高額な専従者給与を支払っていたところ、税務署が「労務の対価として過大」として否認し訴訟になりました。裁判所は、妻の労務内容自体は他の従業員より専門性・貢献度が高いとしつつも、事業所得(金額)とほぼ同額の給与を配偶者に支払うのは不相当であると判断しました。その結果、事業利益と同水準の部分は必要経費と認められないとされました。この判例から、専従者給与が事業規模や他従業員給与に比して高すぎる場合、超過部分は経費にならないことが示されています。

税務調査での指摘例:

税務調査では、専従者給与を届け出ている場合でも「本当にこの金額分の働きをしていますか?」と質問されることがあります。例えば家族に毎月30万円支払っているケースで、「勤務状況や仕事内容を教えてください」と求められます。何も記録がなく答えに窮すると、適正額か疑われるわけです。また、専従者の出勤簿や作業日報がないと「そもそも働いていないのでは」とみなされかねません。実例では、家族がパート程度の手伝いしかしていないのに月給50万円を払っていたため、大部分を否認されたことがあります。さらに青色専従者給与の届出自体を怠っていた場合、支払額全額が経費不算入とされ、代わりに白色申告者の事業専従者控除(上限86万円など)しか認められなかった例もあります。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 事前届出と要件遵守:家族に給与を払うなら、必ず所轄税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を期限内提出しましょう。専従者となる家族は原則他に仕事を持たず、年間6ヶ月超事業に従事することなど要件を満たす必要があります。これを怠るといくら支払っても経費になりません。
  • 妥当な給与水準設定:給与額は仕事内容や勤務時間に見合った金額に設定します。他の従業員がいればその人たちと同程度、いなくても同業他社の給料相場を参考にします。利益の大半を家族給与に振り向けるような設定は避け、あくまで労務の対価として常識的な範囲に収めます。必要に応じて税理士に相談し「適正給与額」のアドバイスを受けるのも良いでしょう。
  • 勤務実態の証拠を残す:家族とはいえ勤務実績を記録しておくことが大切です。タイムカードや日報、担当業務の成果物などを残し、調査で提示できるようにします。口頭説明だけでは説得力に欠けるため、誰が何時間何の仕事をしたかを見える化しておくと経費性を主張しやすくなります。

取引先以外への祝儀・香典などの慶弔費

グレー/黒とされる理由:

冠婚葬祭に伴うご祝儀や香典などの慶弔費も、経費計上で迷いやすい費用です。取引先や従業員の慶弔であれば事業に関連した交際費として認められるケースがありますが、家族・親族や純粋な友人知人に対する慶弔費は事業と無関係な私的支出とみなされ、経費にはなりません。例えば友人の結婚式のご祝儀を経費に落とすことはできず、税務上は明確にブラックです。微妙なのは「友人兼クライアント」の場合ですが、この場合もビジネス上の付き合いがあるかどうかで扱いが分かれ、慎重な判断が求められます。

税務署の判断基準:

慶弔費が必要経費となるかは、その相手との関係が仕事上のものか否かがポイントです。具体的には、従業員や取引先(顧客・仕入先等)に対する香典・祝儀は交際費として経費算入が認められ得ます。実際、税務上も取引先等の慶弔見舞金は接待交際費の範囲とされています。一方、家族や親戚、仕事と無関係な友人への支出は経費不可です。友人でも、その人が顧客(クライアント)でもある場合はグレーゾーンですが、少なくとも形式上仕事上の取引が存在することが条件になります。税務署は領収書がない支出でも質問検査権で内容を確認できますので、「○○さんへの香典」というメモがあればその人物が誰か、取引先か否かを調べます。

関連する判例:

慶弔費に関する直接の判例はあまり見当たりませんが、交際費全般の判例で「事業に関連しない社長個人の交際費は会社経費と認められない」とされた例があります(法人税の判例ですが趣旨は同様です)。個人事業主の場合も、事業の利益獲得と無関係な人的関係への支出は必要経費にならないとの一般論が適用されます。また通達等で「得意先、仕入先等に支出した慶弔見舞金は交際費」とあり、それ以外は経費にならないことが示されています。要するに、プライベートな慶弔費は税務上認めないという姿勢です。

税務調査での指摘例:

慶弔費は現金支出が多く領収書が無い場合もあります。税務調査では通帳の動きなどから「この5万円は何ですか?」と聞かれ、「友人の結婚祝いで…」などと答えると、それが経費計上されていれば即アウトです。調査官は経費帳に「香典」などとあれば相手を確認し、顧客リストに無い名前なら「これは誰?仕事関係?」と掘り下げてきます。たとえば実兄の葬儀香典を経費で落としていたケースでは、「兄弟への香典は事業と無関係」として否認され追徴課税されました。また友人兼取引先のケースでも、その取引実態がごくわずかで形式的だったため「実質はプライベート」と判断された例もあります。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 事業関係者かどうか明確に:慶弔費を経費にする場合は、相手が事業に関係ある人物であることを明確にしましょう。例えば請負契約先の担当者や発注元の社長など、仕事上付き合いのある人への香典・祝儀であれば、交際費として筋が通ります。その際、招待状や訃報の案内状などを保存し、誰に対する支出か裏付けを残すと安心です。
  • 摘要欄への記載:帳簿や出金伝票の摘要欄に「○○商事社長長男の結婚式祝儀」等、仕事との関連が分かるよう記録します。調査時にも「取引先です」と即答でき、招待状も提示できれば経費性を主張しやすくなります。逆に私的関係ならはじめから経費にしない勇気も必要です。
  • グレーな場合は慎重に:友人でもある顧客などグレーなケースでは、その人との取引の具体的内容(取引額や頻度)も考慮しましょう。取引が些少で友人関係がメインなら経費は難しいです。このような場合、経費に計上せず個人の出費として処理するか、事前に税理士に相談しておくと安全です。

携帯電話・通信費のプライベート利用分

グレー/黒とされる理由:

スマートフォンやインターネット回線などの通信費は、事業にも私生活にも密接に関わる費用です。一台の携帯電話で仕事もプライベートも兼用している場合、通話料や通信料の全額を経費にすると私用分が含まれるためグレーゾーンとなります。税務上は、事業利用部分のみが必要経費であり、私用部分は経費にできません。にもかかわらず明確な按分をせず100%計上していると、家事費を混入させたブラックな処理と見做され、否認される可能性が高くなります。

税務署の判断基準:

通信費について税務署が見るのは、業務使用と私的使用の割合をどう区分したかです。例えば携帯電話料金であれば、通話明細やデータ使用量から業務分を概算するのが望ましいです。何の根拠もなく「半分仕事だろう」で50%を経費にしている場合、「明らかに区分したとは言えない」として必要経費と認められない場合があります。逆に、仕事用と私用で電話機自体を分けている(2台持ち)なら、仕事用分は全額経費にできますし、1台でも請求書の通話履歴から業務通話の時間・件数を割り出して按分すれば説得力があります。インターネットも同様で、自宅兼事務所のネット回線なら仕事で使う時間帯やデータ量の比率などで按分計算するのが理想です。

関連する判例:

通信費按分に関する直接の判例はありませんが、概念的には前述の家事関連費の考え方(業務必要部分のみ経費)がそのまま当てはまります。実務上も、裁決事例で「ガソリン代等と同様、携帯電話料金は使用実態に応じて按分計上すべき」との判断が示されたケースがあります。また国税庁も携帯電話やマイカーの家事按分はよくある事例として挙げており、合理的な根拠なく按分しなかった場合は経費性が否定され得るとの見解を示しています。要は、通信費も公私混同はNGということです。

税務調査での指摘例:

調査官は通信費の科目が大きな金額だと、「携帯電話はお一人で何台お持ちですか?ご家族も使っていますか?」といったヒアリングをしてきます。例えば携帯代月2万円を全額経費にしていると、「かなり高額だがプライベートで動画視聴なども含まれていないか?」と疑われます。通話明細や通信量の提出を求められることもあります。実例では、深夜帯の長電話や大容量の動画ストリーミングが明細から判明し、「業務時間外の私用」と判断され通信費の3割を否認されたケースがあります。また、自宅のネット代も全額計上していたものが、「家族も利用しているでしょう」として半分以上カットされた例もあります。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 可能なら仕事用と私用を分ける:最もシンプルなのは、携帯電話や回線を仕事専用にもう一本契約することです。仕事用電話を持てばその料金は全額経費にできますし、プライベート電話は経費にしなければ明確に区分できます。コストは増えますが、経費管理の透明性というメリットがあります。
  • 使用実績に基づき按分:1台で兼用する場合、通話時間や通信量のうち業務使用の割合を計算しましょう。電話なら着信履歴をチェックして顧客や取引先との通話時間を集計する、ネットなら業務に使ったデータ通信量(メールやクラウド使用など)を推計するといった方法があります。その結果例えば「仕事7割:私用3割」となれば、その割合で費用を按分計上します。
  • エビデンスを示せるように:按分の根拠となる計算書や通話明細のハイライトを保存しておきます。税務署に説明する際、「○○さんとの通話が月◯時間、その他業務連絡が…」とデータで示せれば納得されやすいです。逆に「なんとなく半分」は禁物です。日常的に業務と私用を意識して使い分ける習慣づけも大切です。

個人の美容・健康管理費(理美容代・健康診断費用など)

グレー/黒とされる理由:

仕事を円滑に行う上で身だしなみや健康管理は確かに重要ですが、その費用(散髪代やジム代、健康診断費など)は基本的に事業所得を生み出すための直接経費ではなく、個人の生活費と捉えられます。誰もが必要とする身だしなみ・医療費であり、事業専用と明確に区分できないため、税務上は原則経費NG(ブラック)です。美容院代やエステ代などを経費計上すると、公私混同を疑われやすいでしょう。ただし職業によっては一部グレーな扱いが許容される場合もあります(後述)。

税務署の判断基準:

基本的に、個人事業主自身の生活維持や健康増進のための費用は必要経費にならないとされています。税務署は「それは業務に不可欠か?」という観点で判断します。例えば美容室代について、モデルや芸能関係で容姿が仕事の成果に直結する職業の場合は業務必要経費と主張しうる余地があります。実際、「撮影のためにヘアメイクを整えた」など明確な業務目的が証明できれば経費計上が認められた例もあります。一方、一般的なビジネスパーソンの散髪代は私的身だしなみとされアウトです。また健康診断費用も、自身の健康管理は事業関係なく義務的に発生するものとして経費不可(医療費控除など個人控除の範疇)となります。医師やパイロット等、法定で定期健康診断が求められる職種でも、その費用を必要経費とするのは難しいのが現状です。

関連する判例:

美容・健康費用単独の判例は見当たりませんが、概念的には被服費の判例(前述のスーツ判例など)や、役員の社交費が否認された判例などが参考になります。「仕事上必要でも私生活上も必要なものは経費にならない」という考え方が裁判所の基本姿勢です。ただ、近年フリーランスの台頭で美容費を経費にできるかという議論があり、職業特殊性があれば経費性を認める余地が議論されています。例えばモデルのエステ代をどう扱うかなどですが、これらはまだ明確な司法判断は無く、ケースバイケースと言えます。

税務調査での指摘例:

経費に美容院のレシート(カット代◯◯円)やドラッグストアで買ったサプリメント代などが混ざっていると、調査官は高い確率で質問します。「これはどなたの美容代ですか?仕事との関連は?」といった具合です。説明に窮すれば即否認でしょう。過去の例では、営業職の男性が「身だしなみも仕事のうち」と毎月の理髪代を経費にしていたところ、税務署に全額趣味娯楽費扱いで否認されたケースがあります。またジム会費やマラソン大会参加費を「交際費」として計上していた人が、「健康増進目的は経費になりません」と指摘された事例もあります。健康診断費用を福利厚生費で落としていたケースでは、「法人なら福利厚生費だが、個人事業主自身の健康診断は経費不可」と修正を求められました。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 職業上の必要性を証明:もし美容費を経費にするなら、職業と明確に結びつけることが必要です。例えばモデル・俳優・司会者などで「〇月〇日の撮影/出演のため美容院でヘアセットを行った」と領収書にメモし、実際にその撮影写真などエビデンスを残します。こうした特殊事情が無い限り、美容代は経費にしない方が無難です。
  • 自身の健康維持費は経費計上しない:健康診断費用、フィットネスジムの会費、サプリ代、マッサージ代、メガネ・コンタクト代など自分の体調管理目的の支出は基本NGです。これらは医療費控除など個人側の控除で対応し、必要経費には入れないのが安全です。どうしても事業関連性を主張するなら、例えばスポーツインストラクターが研修目的で他のジムを利用した等、業務上の理由付けを用意しますが、認められるかはケースバイケースです。
  • 福利厚生費と混同しない:法人なら役員でも健康診断費や人間ドック費用を会社負担するケースがありますが、個人事業主本人には福利厚生の概念が適用されません。この違いを理解し、自分自身にかかる費用は経費化できないものが多いと認識しておきましょう。従業員のための費用(社員のインフルエンザ予防接種代等)は福利厚生費になり得ますが、自分の分は別扱いです。

所得税・住民税や罰金など経費にならない支出

グレー/黒とされる理由:

税金そのものや罰則金など、法律上経費に算入できないと明確に規定されている支出があります。例えば所得税や住民税は個人の利益に対して課される税であり、事業経費にはできません。また、交通違反の反則金や罰金など公序良俗に反するような支出も、節税目的で経費にされたら本末転倒のため経費算入は法律で禁止されています。これらは税法上ブラックどころか絶対に経費にできない真っ黒な項目ですが、初心者の方がうっかり申告書に入れてしまうこともあるため最後に挙げておきます。

税務署の判断基準:

所得税・住民税については所得計算上そもそも控除が認められていない支出です。事業に必要か否か以前の問題として、税法で必要経費から除外されています。同様に、自動車の違反切符の反則金や科料、遅延損害金なども一切経費になりません。税務署は申告書や帳簿を見ればすぐ判別できるので、誤って計上していると確実に修正を求められます。罰金等は法人税でも損金不算入であり、個人事業でも必要経費にならないと統一的に扱われます。公務員への賄賂など論外ですが、万一計上していれば重加算税案件でしょう。

関連する判例:

所得税や罰金の経費算入について争われるケースは滅多にありません。法律が明確なので、納税者も訴えづらいためです。ただし、「重加算税は罰金に類するから損金不算入では」といった論点で裁判になった例がありますが、基本的に制裁的な支出は税務上認めないという原則が維持されています。要するに、自分の税金や違法行為の罰金は自腹で払うべきもので、経費で落とすような性質のものではないということです。

税務調査での指摘例:

あまりないケースですが、新米の事業主が前年分の所得税を「租税公課」という科目で経費計上してしまい、調査で「所得税は経費になりませんよ」と全額否認された例があります。また、自家用車での駐車違反反則金を雑費に入れていたのを指摘され削除させられたケースもあります。当然ながら追徴税額も発生します。経理処理に不慣れだと「税金も税金だから経費でいいのでは?」と誤解することがありますが、それを見逃すほど税務署も甘くありません。

経費として認められるための対策・注意点:

  • 経費不可の項目を把握する:所得税・住民税・事業税以外の自分の税金(予定納税など)や、国民年金・国民健康保険料、罰金・過料などは経費にできないと覚えておきましょう。こうしたものは申告書上、必要経費ではなく所得控除(社会保険料控除など)で処理するか、そもそも控除対象外です。経費の勘定科目に入れないようにします。
  • 帳簿付けの注意:租税公課という科目で経費になる税金(消費税の納付や固定資産税など事業関連税)は計上しますが、所得税・住民税は事業主勘定(事業主貸)で処理して、損益計算書に含めないようにします。誤っても経費集計に入れないことが大切です。罰金も同様に、経費ではなく事業主貸(または事業主借)で処理し、決算書に影響させないようにします。
  • グレーですらない項目は計上しない:税金・罰金は「グレーゾーン経費」ではなく完全なNG項目なので、節税目的でも絶対に計上しないことです。もし税理士に「これは経費になりませんよ」と言われたら素直に従いましょう。知らずに計上してしまった場合も、後から自主的に修正申告すればペナルティは軽減されます。

まとめ・適切に経費計上するためのアドバイス

上記のようなグレーまたはブラックになりやすい経費項目について理解した上で、個人事業主が確定申告時に適切な経費計上を行うための総合的なポイントを以下にまとめます。

  • 「事業に直接関係する支出か?」を常に自問する:迷う経費があれば、それが売上や事業遂行に必要不可欠なものか考えます。必要不可欠と言えないもの(生活上通常必要なだけのもの、あれば便利な程度のもの)は経費にしないのが無難です。
  • 家事関連費は合理的に按分し証拠を残す:電話代や家賃など公私混同の恐れがある費用は、客観的根拠にもとづき事業部分を按分計算します。按分比率の計算根拠や、それを裏付ける記録(領収書・写真・ログ等)はきちんと保存し、後で説明できるようにしておきましょう。
  • 経費の目的・内容を記録する習慣:領収書には日付・金額のほか、「誰に」「何のために」使ったかをメモする習慣をつけます。特に交際費や旅費などは、こうした記録があるかないかで経費認定に大きな差が出ます。
  • 「経費にならないもの」は最初から除外する:所得税・住民税や個人の保険料、罰金、そして事業主本人の給料や生活費は経費にならないとルールで決まっているので最初から経費帳に入れないことです。仕訳の時点で事業主貸などで処理し、経費集計から除きましょう。
  • 高額で目立つ経費は特に慎重に:車両購入費や専従者給与、大きな接待費など金額が大きい経費は調査官の目にも留まりやすいものです。高額経費ほど事前に専門家に相談したり、契約書・見積書など詳細資料を用意したりして、正当に説明できるように備えてください。
  • 経費科目ごとに領収書と証拠を7年間保管:青色申告の場合、領収書や帳簿類は7年間の保存義務があります。後から「あの時の経費の証拠を見せて」と言われても出せるよう、整理して保管しておきましょう。特にグレーな経費ほど、関連するメールや写真なども一緒に保存しておくと安心です。
  • 税理士など専門家に相談する:経費判断に迷うケースが多い場合、税理士に相談して是非を確認するのも有効です。グレーゾーンの扱いは経験豊富な専門家の意見を聞くと判断材料になります。最終的には納税者自身が説明責任を負うことを念頭に、アドバイスを受けて判断しましょう。

以上の点に留意して経費計上を行えば、税務署に「黒」と判断されるリスクを大きく下げることができます。事業に必要な経費は証拠とともに堂々と計上し、私的な支出は混ぜないというメリハリが重要です。適切な経費計上によって、認められるべき経費はきちんと認めてもらい、安心して節税に繋げていきましょう。

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