借用書なしの金銭貸借と時効対策:内容証明郵便の活用

借用書がないとどうなる?時効の基本ルール

借金の貸し借りで借用書を作成しない場合、時効によって貸したお金を回収できなくなるリスクが高まります。日本の法律では以下のように消滅時効が定められています。

  • 金銭貸借の消滅時効は原則5年です(民法166条)​。
  • 事業目的での貸し借りでは時効期間が10年となるケースもあります(旧商法522条)​。

つまり、最後に返済を受けてから5年(または場合によって10年)経過すると債権が消滅する可能性があります​ 。

なお、借用書がなくてもLINEのメッセージやメール、銀行振込の記録などがあれば、貸金の事実を示す証拠となり得ます​。

しかし、相手(借りた側)が「時効を援用する」(時効による消滅を主張する)と、請求は認められなくなってしまいます​。

そのため、時効完成前に適切な対策を取らなければ、貸したお金が戻ってこなくなる恐れがあります。

時効を止める方法:内容証明郵便とは?

時効の完成を防いだり、期間をリセットしたりするための手段の一つに「内容証明郵便」があります。では、内容証明郵便とはどのようなものでしょうか?

内容証明郵便とは:

「いつ」「誰が」「誰に」「どのような内容の文書」を差し出したかということを、郵便局が公的に証明してくれる特殊郵便です​。

郵便局が差出人の用意した謄本を保管し、誰が・いつ・誰宛てに・どんな内容の文書を送ったかを証明してくれます​。

https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/syomei/index.html

これにより、正式な請求を行った確かな証拠を残すことができます。また、内容証明郵便を送付すると消滅時効の完成が一時的に猶予され(中断され)、時効期間がリセットされます​。

時効中断(更新)につながる主な手段としては、次のようなものがあります:

  1. 裁判上の請求(訴訟提起や支払督促の申立てなど)
  2. 差押え・仮差押え・仮処分(強制執行手続)
  3. 債務者による債務の承認(一部返済や「必ず返す」との明確な意思表示)
  4. 内容証明郵便による請求(比較的手軽に行える方法)​

 

この中で、内容証明郵便による催告(請求)は裁判所を介さずにできる簡便な方法であり、時効完成を防ぐ効果が認められています​。

どのタイミングで送るべき?

時効が成立する前に送らないと意味がない! 時効対策として内容証明郵便を活用する場合、タイミングが非常に重要です。

  • 最後に返済を受けた日から5年(または10年)が経つ前に内容証明郵便を送りましょう。時効期間内に正式な請求を行うことで、相手に返済を促しつつ時効の完成を防ぐことができます。
  • 万一、時効が完成してしまってから内容証明を送ったり裁判を起こしたりしても、相手が「時効消滅」を主張すれば請求は認められません​。

そのため、時効成立前に行動を起こすことが絶対条件となります。

 

内容証明郵便の書き方・送り方

基本的に記載すべき内容は以下の通りです。

  • 貸した側(債権者)の氏名・住所
  • 借りた側(債務者)の氏名・住所
  • 貸した金額と貸付日(いつ、いくら貸したか)
  • 返済を求める旨の請求文言
  • 時効中断を図る意思表示(例:「民法◯◯条に基づき時効の完成猶予を主張する」等)

これらを書面にまとめたら、実際に郵便局で内容証明郵便として送付します。

文例

【差出日:令和○年○月○日】

債権者住所 〒123-4567

○○県○○市○○町○番地○○

債権者氏名 ○○ ○○ (印)

債務者住所 〒987-6543

○○県○○市○○町○番地○○

債務者氏名 ○○ ○○ 様

件名:金銭貸借に関する返済請求及び時効の中断に関する通知書

 

拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 

私は、令和〇年〇月〇日に、あなた(○○ ○○)に対して金○○万円をお貸ししました。

本来であれば、令和〇年〇月〇日までに、上記金額の返済をいただく約束でございましたが、現在に至るまで一切の返済が行われておりません。

つきましては、以下の事項を正式に通知いたします。

 

  1. 債権額の明確化

私の有する債権は、令和〇年〇月〇日付けであなたに貸し付けた金○○万円であり、本日時点において返済は確認されておりません。今後、日割り計算により遅延損害金を請求する可能性もありますので、早期の対応を強く求めます。

  1. 時効の中断(延長)の意思表示

本書面は、民法第168条第1項に基づく催告として、時効の中断(完成猶予)を目的とするものです。あなたが本書面の到達後においても返済を怠る場合、改めて法的措置(裁判・支払督促の申立て等)を講じ、遅延損害金および訴訟費用等を合わせて請求することも辞さない構えであることを、ここに明記いたします。

  1. 支払期限

本書面到達日から起算して2週間以内に、下記の振込先に全額をお支払いください。

振込先:○○銀行 ○○支店 普通口座 口座番号:1234567 口座名義:○○ ○○

  1. 今後の対応

上記期限内に返済が確認できない場合、もしくは何の連絡もいただけない場合には、あなたの意思にかかわらず速やかに法的手続きを進める予定です。その場合、貴殿の信用情報や財産差押え等に至る可能性があることを申し添えます。

最終的な紛争の解決を目指し、まずは任意での返済を強く要望いたします。また、返済方法や分割払い等についてご相談がある場合は、速やかに書面または電話等により連絡をいただければ、話し合いに応じる用意はございます。

本通知は内容証明郵便により発送し、配達証明も付して、あなたに到達した事実を公的に証明しております。よって、本書面が到達後の不履行については、予めご了承いただきたく存じます。

以上、取り急ぎ書中にてご請求申し上げます。

敬具

【差出人連絡先】

住所:〒123-4567 ○○県○○市○○町○番地○○

氏名:○○ ○○

電話:090-××××-××××

 

 

郵便局での手続き

次のような流れになります。

  1. 内容証明郵便の文書を3通作成する
    (受取人に送る原本1通と、差出人保管用・郵便局保管用のコピー2通。同じ内容のものを計3部用意します​)。
  2. 郵便局の窓口へ提出する
    (内容証明を取り扱う郵便局に、作成した文書3通と封筒1通を封をせずに持参します​。窓口で「内容証明郵便でお願いします。配達証明も付けてください」と伝えると確実です​)。
  3. 費用の支払い
    (料金は約1,000円程度です​。内容や枚数によって変動しますが、1枚程度の文書であれば郵便料金+書留料480円+内容証明料480円でおよそ1,000円になります​。配達証明(配達の記録をもらうオプション)を付ける場合は、そこにさらに数百円の追加料金がかかります​)。
  4. 配達証明付きで送付する
    (相手に届いたことを証明するために、配達証明も付けて送るのがベストです。​配達証明を付けることで、相手が受け取った日時の記録が入手できます。)

郵便局に内容証明郵便を出したことが記録され、郵便局にも謄本が5年間保管されます​。これによって、「いつ誰にどんな内容で請求したか」という事実が公的に残るため安心です。

「本当に効果があるの?」→ 成功率を上げるポイント

内容証明郵便を送ったからといって、必ず相手がすぐ返済してくれるとは限りません。しかし、以下のようなメリット・効果が期待できます。

  • 心理的なプレッシャーを与えられる。 普通のメールや口頭での督促とは異なり、正式な郵便による請求書面が届くことで、相手に「放置すると裁判になるかも」「無視できない」という心理的圧力を与える効果があります​。実際、内容証明郵便で「◯日以内に返済しないなら法的手段をとる」と通知したところ、相手が慌てて支払ってきた例もあります​。
  • 時効の完成を防ぎ、交渉の時間を確保できる。 内容証明による催告を行えば、そこから6か月間は時効が完成しません​。その間に話し合いや返済計画の見直しを行う余地が生まれます。仮にすぐ返済に至らなくても、法的手続きに移行する準備期間を稼ぐことができます。
  • 裁判になった際の証拠として有効。 後日万が一訴訟に発展した場合でも、「いつ・どんな内容の請求を送ったか」を示す内容証明の記録は重要な証拠になります​。メールやLINEだと送信相手が誰か不明確になりがちですが、内容証明郵便であれば相手の住所宛に送達された事実が公的に証明されるため、裁判所でも信用度の高い証拠として提出できます​。

以上のポイントから、内容証明郵便は相手にプレッシャーを与えつつ法的権利を主張する強力な手段となります。ただし、送る内容には冷静な文面で事実と要求を記載し、感情的な表現は避けましょう。行き過ぎた表現は相手への脅迫と受け取られる恐れもあるため注意が必要です。

 

弁護士や司法書士に相談すべき?

内容証明郵便は個人でも作成・送付できますが、ケースによっては専門家に相談・依頼することも検討しましょう。以下のような場合です。

  • 相手が内容証明を無視しそうな場合(督促しても返答がない、逃げている様子がある 等)
  • 高額な貸付金で確実に回収したい場合
  • 最初から訴訟も見据えて準備を進めたい場合

このようなケースでは、弁護士や認定司法書士に相談することで、より踏み込んだ対応策や法的手続きを検討できます。弁護士名で内容証明を送れば相手に与える心理的プレッシャーも一段と強くなりますし、以降の交渉や裁判手続きもスムーズに進められます​。ただし専門家に依頼すると費用がかかる点は留意しましょう(弁護士に内容証明作成を依頼する場合、数万円(約3~10万円)の費用がかかるのが一般的です​。比較的費用の安い司法書士や行政書士に依頼する方法もありますが、代理権の範囲に制限があります​)。

 

まとめ:早めの行動がカギ!

借用書がなくても、証拠を確保し、時効前に内容証明郵便で請求することで貸金回収の可能性を高めることができます。 時効にかかって権利が消えてしまう前に、以下の行動を検討してください。

  • 証拠を整理する。 LINEやメールのやり取り、銀行振込の控えなど、貸し借りの事実を示す記録を集めておきましょう​。借用書がなくても、複数の証拠を組み合わせれば貸金の立証は可能です。
  • 時効完成前に内容証明郵便で請求する。 最後の返済から時間が経っている場合は特に急ぎましょう。正式な書面で返済を求めることで、相手にプレッシャーを与えると同時に時効のタイムリミットを延長できます​。
  • 無視された場合の次の手段も考えておく。 内容証明を送っても返事がない場合は、早めに少額訴訟や支払督促など裁判所を通じた手続きに踏み切ることも検討しましょう。必要に応じて弁護士等の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることも大切です​。

お金を貸した側としては、「時効」という見えない期限との戦いになります。泣き寝入りしないためにも、スピーディーかつ適切な対応を心がけましょう。早めに行動を起こせば、貸したお金を取り戻せる可能性は十分にあります。困ったときは一人で抱え込まず、専門家の力も借りながら解決を目指してください。貸したお金が戻らなくなる前に、ぜひ一歩踏み出しましょう!​

 

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