日本の現金・海外取引が多い会社が注意すべき「マネーロンダリング疑い」とは?

背景

近年、国際的なマネーロンダリング(資金洗浄)対策の規制強化が進んでおり、日本国内の金融機関でもコンプライアンス体制が厳格化しています。特に「海外との取引が多い」「現金の出入りが頻繁で高額」という企業は、その取引内容に不透明な部分があると判断された場合、マネーロンダリングの疑いをかけられるリスクが高まります。実際、口座の凍結や厳格な追加調査が行われ、企業活動に大きな影響を及ぼす事例も報告されています。

多くの企業は真っ当なビジネスを行っていますが、取引の事実関係や目的・理由が十分に説明できないと、金融機関によって「何か不正な資金の動きがあるのではないか」と疑われてしまう可能性があるのです。そこで今回は、疑われる背景や原因、実際の金融機関の目線、そして具体的な対策方法について解説します。

マネーロンダリングとは?

マネーロンダリングとは、犯罪によって得られた資金の出所を隠蔽し、合法的な資金に見せかける行為です。麻薬取引、テロ資金供与、詐欺、脱税など、様々な犯罪によって得られた「汚れたお金」を、金融システムや経済活動を通じて「きれいな資金」に変換することで、犯罪者はその資金を自由に使えるようになります。

マネーロンダリングは、一般的に以下の3つの段階を経て行われます。

  1. Placement(投入): 犯罪収益を金融システムに投入する段階です。現金化、海外送金、偽名口座への預け入れなど、様々な方法が用いられます。
  2. Layering(層化): 資金の出所を隠蔽するため、複雑な取引を繰り返す段階です。複数の口座間で送金したり、資産を転換(例:現金→不動産→株式)したりするなどの方法が用いられます。
  3. Integration(統合): 層化された資金を合法的な経済活動に組み込み、クリーンな資金として利用する段階です。不動産購入や企業への投資、高級品の購入など、様々な方法が用いられます。

マネーロンダリングの類型は、利用される手段や対象となる資産によって様々です。主な類型としては、以下のようなものが挙げられます。

類型 説明
金融機関を利用したマネーロンダリング 銀行口座などを利用して資金洗浄を行う
貿易取引を利用したマネーロンダリング 輸出入取引の価格操作などを通じて資金洗浄を行う
不動産取引を利用したマネーロンダリング 不動産の売買を通じて資金洗浄を行う
仮想通貨を利用したマネーロンダリング 仮想通貨の匿名性を利用して資金洗浄を行う

なぜマネーロンダリングを疑われるのか?—— 原因とよくある事例

海外送金や現金取引が多い

  • 海外取引が多い企業
    海外との送金取引が頻繁に行われると、資金の出所や使途が分かりづらくなります。タックスヘイブン(租税回避地)を経由している、送金先や目的が曖昧などの場合、犯罪による収益を隠しているのではないかと警戒されます。
  • 高額な現金の出し入れが頻繁
    一般的に高額な取引は銀行振込等で処理されることが多い一方で、現金で多額を持ち込んだり分割して入金するケースがあると、「資金洗浄の手口かもしれない」と疑われます。

取引パターンが不自然・説明できない

  • 事業内容と無関係な大口資金移動
    会社の事業規模や収益から考えて明らかに不釣り合いな大金が口座を出入りしている場合、金融機関は「どこから来たお金なのか?」と警戒します。
  • 短期で大量の分割入金(ストラクチャリング)
    報告義務を避ける目的で、一度に大金を動かさず小口に分割して多回数に分けて入金する行為は、典型的なマネーロンダリング手口とされます。

口座名義や会社実態に不透明な点がある

  • 架空名義や借名口座の可能性
    実体のない法人(ペーパーカンパニー)の口座や第三者名義の口座が使われると、資金の真の所有者が誰か分からず、金融機関が疑義を抱きます。
  • 口座開設後すぐに大口取引を連発し、その後解約
    マネーロンダリング目的の「使い捨て口座」だと見なされるケースがあり、不審な活動と判断されやすくなります。

金融機関が「マネーロンダリングの疑い」を持つ理由

金融機関はマネーロンダリング防止の最前線に立ち、以下のような観点で監視を行っています。

  1. 法令上の義務
    犯罪収益移転防止法により、金融機関は不正取引を検知したら当局に「疑わしい取引」として報告する義務があります。これを怠ると金融機関自体が行政処分の対象になるため、厳しく監視しています。
  2. リスクベース・アプローチ
    金融機関は顧客や取引に応じてリスク評価を行い、リスクが高いと判断した場合はより詳細な確認作業や監視を行います。海外取引や多額の現金取引は、どうしてもリスクが高い分類にされやすいのが実情です。
  3. マネーロンダリング手口の多様化
    国内外の犯罪組織が資金洗浄を巧妙化させており、銀行口座や海外送金、不動産取引、暗号資産などさまざまな経路を悪用します。そのため金融機関は「怪しいかどうか」のチェックポイントを多岐にわたって設定しているのです。

会社自体は無実なのに疑われるとどうなるか?

もし金融機関からマネーロンダリングの疑いをかけられると、以下のようなリスクや影響が考えられます。

  • 口座凍結・利用制限
    口座残高や取引内容を詳しく調べるため、一定期間口座を凍結したり、大口取引に限って承認制にされる場合があります。事業運営に支障をきたすだけでなく、取引先との信用問題にも発展する恐れがあります。
  • 追加の書類提出や説明要求
    取引相手の情報、契約書、資金の出所など、通常より踏み込んだ書類の提出を求められることがあります。対応が遅れるほど、企業としての信用を損なうリスクが高まります。
  • 金融機関内部や当局からの厳しい監視
    一度疑いをかけられると、今後の取引すべてが徹底的に監視・調査されやすくなり、経理担当や管理部門の負担も大きくなります。

要注意!こんな行動はNG

会社自体は不正をしていなくても、以下のような行動をとると「マネーロンダリングの疑い」を強めてしまう可能性があります。悪気がなくても金融機関や当局の目線では「怪しい」と判断されることがあるため、くれぐれも注意しましょう。

説明なしに現金取引を大量・分割で行う

    • 100万円単位の現金を、明確な理由書や契約書なしで一度に持ち込む。
    • 報告義務の閾値を意識してかのように小口に分割し、短期間に何度も入金を行う。

海外送金の目的を曖昧にする

    • 「業務の一環です」と口頭で済ませ、具体的な契約書や相手先情報を提示しない。
    • 送金先の国や企業の詳細、なぜその金額が必要なのかを説明しない。

経費処理や売上の裏付けが極端に不十分

    • 高額な入金があるにもかかわらず、顧客名や取引書類が不明確。
    • 受発注書・請求書の保管が杜撰で、いざ金融機関から確認されても提示できない。

金融機関からの問い合わせを軽視・放置する

    • 「今忙しいから後で」「そんなこと聞いてくるなんて面倒だ」といった態度で回答を渋る。
    • 必要書類の提出を繰り返し先延ばしにし、結局提出しない。

口座名義や実質的支配者を偽る・隠す

    • 実態のないペーパーカンパニー、もしくは他人名義で口座を開設し取引を行う。
    • 真の資金提供者や利益享受者(Beneficial Owner)を隠蔽する。

 

「使い捨て口座」と思われるような開設・解約パターン

    • 口座を開設してすぐ、短期間で大口取引を連発し、その後すぐに解約する。
    • 取引の理由が分からず、事情を聞いてもはっきり説明できない。

 

自社や取引先が制裁対象・高リスク国との関係を説明しない

    • 国連などの制裁リストや、高リスク国の企業や人物との取引にあたりながら、一切説明しない。
    • 適切な書類(輸出管理関連書類など)を用意しないまま取引を進める。

上記のような行動を取ると、たとえ不正の意図がなくても、金融機関としては「何か後ろめたい事情があるのではないか?」と勘繰らざるを得ません。不要な誤解から取引停止・口座凍結を招かないためにも、NG行動は避けましょう。


マネーロンダリングを疑われないための具体的対策

顧客・取引先の情報をしっかり把握(KYCの徹底)

  • 本人確認・企業実態の確認
    新規取引の際は、相手の登記簿謄本や会社概要、主要な株主情報などを確認し、資金力や事業内容に矛盾がないかチェックしましょう。
  • 定期的なデューデリジェンス(CDD)
    長期取引先の場合でも、状況が変化した際には追加で情報を収集するなど、継続的にリスクをモニタリングすることが重要です。

取引目的や資金源を明確に説明できる状態を保つ

  • 受発注契約書や請求書を整備
    大きな海外取引や現金受け渡しがある場合、その正当性を示す契約書や請求書、打合せ記録などをきちんと保存・提示できるようにしておきます。
  • 社内ルールとして記録を徹底
    取引日時、金額、理由、相手の詳細などをシステムや書面で管理し、後から当局や金融機関に提示できるようにすることがポイントです。

不自然な取引は避ける・疑われそうな場合は金融機関へ事前説明

  • 大口の現金取引を分割しない
    一度にまとめて入金すると目立つから…と考えず、不要な分割はかえってマネーロンダリングを疑われる原因になります。
  • 海外送金は用途や必要性を事前に共有
    金融機関が納得しやすい書類や理由を用意し、資金がどこから来て、どこへ行くのかを説明できるようにします。

疑わしい取引を発見したら迅速に報告・相談

  • 社内での連絡体制の整備
    マネーロンダリング防止の責任者を配置し、不自然な取引があれば迅速に相談・検証する体制を作ります。
  • 疑わしい取引の報告(STR)ルールを明確に
    もし外部から「これはちょっと怪しいのでは?」という指摘があったとき、すぐさま役職者やコンプライアンス担当へ連絡するフローを定めておくと、いざというとき慌てずに済みます。

社内教育とリスクアセスメントの継続

  • 定期的な社員研修
    現場担当者が「どんな取引がマネーロンダリングの疑いを生むのか」を理解していないと、悪意なく危険な取引を通してしまう可能性があります。
  • リスクベース・アプローチを採用
    顧客や取引ごとにリスクを評価し、高リスク取引には追加の承認や書類提出を求めるなど、メリハリのある管理を行いましょう。

まとめ

マネーロンダリング対策は、もはや金融機関だけの問題ではなく、海外取引や現金取引が多い日本企業にとっても身近なリスクになっています。会社としては不正な行為をしていなくても、「説明不足」や「取引形態の不透明さ」が原因で金融機関に疑いをかけられ、口座凍結など大きな問題を引き起こす恐れがあります。

  • 透明性の高い取引記録
  • 明確な資金源と送金理由の説明
  • 社内体制の整備と社員教育
  • NG行動(不自然な分割入金や説明拒否など)を避ける

これらをしっかり実施・把握することで、金融機関からの信頼を得られ、結果的にスムーズなビジネス運営が可能になります。規制は今後も強化され続ける見込みですので、最新情報を収集しつつ、自社のAML(マネーロンダリング防止)体制をアップデートしていきましょう。

 

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