
非居住者が日本国内の土地を売却する場合、買主によって源泉徴収が行われることがあります。しかし、適切な手続きを踏むことで源泉徴収された金額を還付してもらうことが可能です。今回は、源泉徴収が発生する条件と還付を受けるための確定申告の手順について、具体的なポイントを解説します。この記事を読むことで、スムーズな手続きと還付の流れを理解し、安心して不動産売却を進められるようになります。
この記事を読んでほしい人
このガイドは、日本国内にある不動産を売却予定の非居住者や、源泉徴収の手続きや還付申請について詳しく知りたい方に向けたものです。
この記事を参考にすることで、源泉徴収額の確認と確定申告による還付を正しく進めることができます。
非居住者とは
国税庁の定義(概要)
国税庁によると、「非居住者」とは日本国内に「住所」がなく、かつ現在まで継続して1年以上、日本国内に「居所」を有していない方を指します。具体的には、海外転勤や海外赴任などで1年以上海外に生活の拠点を移し、日本に住民票がない場合などが該当します。
- 住所:日常生活の拠点となる場所。家族の居住や生活実態なども総合的に判断されます。
- 居所:一時的に滞在している場所のこと。住所に比べ、滞在期間が短い場合に該当します。
日本での「住所」や「居所」の有無は、税務上の判定において非常に重要です。海外移住や赴任を検討する際は、どのタイミングで非居住者となるのか、あらかじめ確認しておきましょう。
非居住者の不動産売却における特徴
非居住者であっても日本国内に所有している不動産を売却することは可能ですが、税務上の取扱いが居住者とは異なります。以下では代表的な3つのポイントを解説します。
源泉徴収義務
非居住者が売主の場合、買主に源泉徴収の義務が生じる点が最大の特徴です。具体的には、不動産売却代金(譲渡対価)の10.21%を買主が源泉徴収し、税務署へ納付しなければなりません。これは非居住者が海外へ出国してしまい、納税が行われないリスクを防ぐための制度です。
- 源泉徴収率:10.21%(買主が一律で天引きし、税務署に納付)
なお、この手続きを買主が怠ると、買主側にペナルティや追徴課税が課される恐れがあります。売主である非居住者は、決済時に源泉徴収される金額を把握し、資金計画に組み込むことが大切です。
税率構成の違い(住民税が課されない)
非居住者の場合、居住者と異なり住民税がかかりません。よって、不動産譲渡所得にかかるのは所得税(+復興特別所得税)のみです。2025年2月時点での具体的な税率は以下のとおり、所有期間の長短によって異なります。
- 長期譲渡所得(5年以上保有):15.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%)
- 短期譲渡所得(5年以下保有):30.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%)
居住者の場合はさらに住民税が加算されますが、非居住者は住民税が不要なため上記税率のみで計算されます。ただし、源泉徴収10.21%ですべてが完結するわけではない点に注意しましょう。源泉徴収はあくまでも概算の前払い税であり、最終的な納税額は確定申告を通じて決定します。
納税管理人の選任
日本国内に住所がない非居住者が不動産を売却して納税申告を行う場合には、納税管理人を選任する必要があります。納税管理人は、非居住者の代わりに税務署とのやり取りや納税手続きを担う存在です。具体的には以下の役割があります。
- 税務署への確定申告書や書類の提出
- 納税手続きの代行
- 税務署からの通知や照会への対応
一般的には日本国内に居住している親族や友人、あるいは税理士などを納税管理人に指定します。届出の際は、管轄の税務署に「納税管理人届出書」を提出してください。選任を怠ると、申告や納税が遅れてペナルティが発生するリスクもあるので要注意です。
売却時の源泉徴収制度の解説
源泉徴収10.21%の概要
制度趣旨:
海外在住の非居住者に対する譲渡所得課税を確実に実施するため、買主が売却代金の一部を天引きし、税務署へ納付する仕組みです。これにより、非居住者の「納め忘れ」リスクを回避し、課税を徹底しています。
内訳:10.21%の計算
・所得税:10%
・復興特別所得税:0.21%
合計で10.21%が源泉徴収されます。
具体的な流れ(例)
売買価格が1億2,000万円の場合:
1. 買主が 1億2,000万円 × 10.21% ≈ 1,225万円 を源泉徴収
2. 約1億774万円を売主(非居住者)へ支払う
3. 買主は差し引いた1,225万円を、支払い月の翌月10日までに税務署へ納付
このように、売却金額の10.21%をあらかじめ差し引いて納める点が大きな特徴となっています。
源泉徴収が免除されるケース
1億円以下 & 個人買主の居住用購入
以下の条件をすべて満たす場合には、源泉徴収は免除されます。
- 買主が個人である
- 購入した不動産を自己または親族の居住用にする
- 売買価格が1億円以下である
たとえば個人が8,000万円のマンションを自宅用として購入する場合、売主が非居住者であっても10.21%の源泉徴収は不要となります。
免除されないケースの例
- 売買価格が1億円を超える場合(自宅用でも源泉徴収が発生)
- 買主が法人、または投資目的など居住用以外で購入する場合(価格にかかわらず源泉徴収が必要)
たとえ5,000万円の売買であっても投資用として購入するなら、10.21%の源泉徴収を行わなければいけません。
注意点
買主側の義務
源泉徴収は、売主(非居住者)ではなく買主に課せられた義務です。買主が手続きを怠ると延滞税などの罰則を受ける恐れがあります。
資金計画への影響
売主である非居住者は、売却金額から10.21%が引かれることを想定し、ローン残債などの精算計画を立てておく必要があります。
確定申告と税金の精算
非居住者でも確定申告が必要
なぜ源泉徴収額10.21%だけでは完結しないのか
非居住者が不動産を売却した場合、買主による源泉徴収(10.21%)はあくまでも概算の前払いです。所有期間(長期・短期)や経費の有無によって実際の譲渡所得税は変動するため、最終的な税額を確定させるためには確定申告が必要です。
非居住者に適用される税率
住民税がかからない代わりに、所得税(+復興特別所得税)のみが課税対象になります。
- 長期譲渡(5年超):15.315%
- 短期譲渡(5年以下):30.63%
所有期間が5年以上であれば長期譲渡となり、税率が低くなるため、源泉徴収10.21%との差額が還付されるケースもあります。
還付が発生するケース
- 3,000万円特別控除が適用される場合
居住用不動産の売却で要件を満たすと、3,000万円の特別控除が受けられます。この控除によって譲渡益が大幅に減り、源泉徴収額との差で還付が発生する可能性があります。 - 売却益がほとんど出なかった、または譲渡損が出た場合
物件を購入した時より売却価格が下がり譲渡損が出る場合も、納めすぎた分として還付を受けられます。
「非居住者なので確定申告は不要」と考えるのは誤解です。むしろ還付の可能性があるため、忘れずに手続きを行いましょう。
確定申告の必要書類と手続き
- 不動産売買契約書
譲渡金額や譲渡日を証明するために必要です。 - 源泉徴収証明書
買主が発行する支払通知書などで、源泉徴収した金額を証明します。 - 経費に関する領収書
仲介手数料や測量費、登記費用などの領収書は経費を証明するために重要です。 - 特別控除に必要な書類
3,000万円特別控除などを受ける際は、適用条件を示す書類(登記事項証明書など)が必要になる場合があります。
申告期限:譲渡した年の翌年2月16日から3月15日(休日の場合は翌営業日)
提出先:通常は納税地を管轄する税務署。非居住者の場合は物件所在地や納税管理人の所在地など、事前の確認が必要です。
納税管理人の選任
非居住者が円滑に確定申告や納税を行うためには、納税管理人を選任しておくことが欠かせません。注意点は以下のとおりです。
- 届出時期:日本を出国して非居住者となった場合、出国後60日以内に所轄税務署へ「納税管理人届出書」を提出するのが原則です。
- 誰を選ぶか:日本国内に住む親族・知人や税理士が一般的です。代理で書類の提出や納税手続きを行うため、信頼のおける人を選びましょう。
還付金の受取り
国内口座への振込が基本
税務署からの還付金は日本国内の銀行口座へ振り込まれるのが一般的です。
・本人名義の日本国内口座:海外在住でも日本の口座があれば直接振り込まれます。
・納税管理人名義の口座:本人の国内口座がない場合、納税管理人の口座を利用するケースが多いです。
海外送金を行う場合は為替リスクや送金手数料なども考慮し、事前に納税管理人と取り決めしておきましょう。
売却の流れと実務上の注意点
海外在住のまま日本の不動産を売却する場合でも、基本的な売却プロセスは居住者と大きく変わりません。ただし、国外在住者特有の税務や実務手続きがあるため、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
海外在住者による不動産売却の一般的な流れ
- 不動産会社へ売却相談
・海外在住であることを必ず伝える
・必要書類のリストアップなど事前準備を徹底する - 媒介契約 / 買取打診
・不動産会社との媒介契約を締結
・査定、書類の郵送・電子署名など海外からの手続きを確認する - 購入希望者と売買契約
・契約書面の確認と署名捺印をオンラインや郵送で行う
・印鑑証明の代わりに「署名証明書」を取得する場合もある - 決済・引渡し
・買主による源泉徴収(10.21%)の有無を確認
・代理人や司法書士に委任し、現地で立ち会ってもらう - 確定申告
・納税管理人経由で必要書類を提出
・還付がある場合は忘れずに申告する
為替や送金に関する留意点(中国在住者向け)
- 日本から中国への送金
・売却代金は一度日本の口座に受領後、海外送金するのが一般的
・中国側で大きな金額を受け取る際、当局への申告が必要な場合もある - 為替レート変動リスク
・決済から送金までにタイムラグがある場合、円と人民元のレートが変動する
・資金計画時に為替リスクを考慮し、必要に応じて対策する - 送金手数料
・銀行や送金方法によって手数料が異なる
・国内外で二重に手数料がかかることもあるため総額を把握しておく
賃貸中物件の売却
賃貸借契約の継続
賃貸中の物件を売却する際は、入居者にオーナーチェンジを伝える必要があります。基本的に賃貸借契約はそのまま新オーナーに引き継がれるため、テナントにとっては所有者が変わるだけという認識になります。
オーナーチェンジ物件としての売却
投資用物件として売り出す場合、家賃収入の実績を買主にアピールできるメリットもあります。ただし、譲渡所得の計算には修繕費や減価償却の取り扱いなどが影響するため、確定申告時に必要書類をしっかり準備しましょう。
まとめ
- 海外在住の非居住者でも、日本の不動産を売却することは十分可能
- 源泉徴収や確定申告、納税管理人の選任など、非居住者特有の手続きを理解することが重要
- 源泉徴収はあくまで概算の前払い税で、確定申告を通じて還付が受けられる場合がある
- 納税管理人をしっかり選び、国内口座の確保や書類管理、税務手続きの連携をスムーズに行う
これらを踏まえて適切に準備を進めれば、海外在住のままでも日本の不動産をスムーズに売却し、余計な税負担を避けることができます。必要に応じて専門家へ相談しながら、円滑に取引を進めていきましょう。
F&Q(想定Q&A例)
Q1. 源泉徴収10.21%は売主(非居住者)が直接納付するのですか?
A. いいえ。買主が売却代金の一部を天引きして税務署へ納付する義務があります。非居住者本人が自分で納めることはできません。
Q2. 1億円以下の物件であっても源泉徴収が必要と言われました…
A. 買主が法人や投資目的など、居住用以外で購入する場合は免除が適用されません。売買価格だけでなく、買主の用途・属性がポイントです。
Q3. 長期譲渡か短期譲渡かはどこで判断しますか?
A. 不動産取得日から譲渡日(売買契約日)までの所有期間が5年を超えるかどうかで判断します。詳細は国税庁の定義を参照してください。
Q4. 還付を受けるために日本の銀行口座が必要だと聞きましたが…
A. 納税管理人の口座を利用するのが一般的です。ご自身名義の口座が用意できない場合は、管理人とよく相談のうえ手続きを進めましょう。


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